工作機械メーカーがスマホ製造や
制御機器で成長できたのはなぜか

 1990年1月に株価、翌91年7月ごろに地価が下落に転じて「資産バブル」が崩壊して以降、わが国の経済は実質的に自動車産業の成長に依存してきた。特に、97年に量産型のHVが発表されたインパクトは大きかった。

 端的に言えば、自動車メーカーが世界の需要を取り込んで業況が上向けば、国内の経済はそれなりに落ち着く。それが難しい場合は減速、あるいは失速が鮮明となる景気循環が今日まで続いている。その間、わが国企業はHVに続く新しい、世界的な高付加価値商品を創出することができなかった。

 HVはわが国の製造業など産業界にとって、向かうべき旗印としての存在感を強めた。その状況は今なお鮮明だ。自動車メーカーは内燃機関の製造などに不可欠なすり合わせ技術を磨き、環境性能や耐久性を高めてきた。

 1次、2次と重層的に連なるサプライヤーは、産業界の盟主である自動車メーカーの要望に応じて工作機械、鋼材、車載半導体、車内装備に使われる化成品などの生産技術を強化した。自動車がわが国製造技術のかなりの部分を育て、鍛えたと言っても過言ではない。

 例えば、工作機械メーカーは、自動車メーカーの要望に応えて他国の競合企業が実現困難な動作制御や切削の技術を生み出してきた。重要なのは、それが自動車以外の需要獲得に重要な役割を果たしたことだ。

 リーマンショック後、わが国の工作機械メーカーはスマートフォンの製造や、中国のファクトリー・オートメーションに必要な制御機器などの需要を取り込み、成長した。コロナショック後のわが国経済の展開を振り返っても、海外からの工作機械需要は、景気の持ち直しを支えた。

 このようにして自動車産業がわが国経済に与える影響は大きくなっている。国内の雇用の8%程度が自動関連産業に従事している。まさに、自動車は日本経済の大黒柱だ。