ある行動に至るまでに、わたしたちはこうしたステップを一瞬で行っています。しかし、認知機能が働きにくくなると、この一連の過程がうまくいかなくなるのです。

たとえば、「お風呂を嫌がる」のはどうしてなのか?

「本人が、お風呂に入るのを嫌がって……」。介護をされる方から、よくお聞きする話です。見方によっては「介護への抵抗」と感じられる、その人の「お風呂に入りたくない理由」は1つではなく、実はその背景には、さまざまな認知機能のトラブルがあると考えられます。

お風呂は、あらゆる感覚のダイバーシティ

 熱い、冷たい、しっとり、ピリリ……。七変化温泉の泉質は、本当に訪れるたびに変化しているのでしょうか?答えは「NO」です。

 変化しているのは、実は、お風呂に入る人間の「身体の感覚」の方なのです。

 季節や朝晩などの時間帯、そして気分や体調によって、自分の周囲を取り巻く環境に対する感じ方、見え方が変わるのは、だれにとってもよくあることです。

 気が乗らない日の朝は、視界がよどんで見えます。親しい人との楽しい食事はなんでも美味しく感じられます。この部屋臭いなあと一度思ったら、ささいな匂いも気になり、どんどん臭く感じてしまいます。

 そしてたいていの場合、こうした感覚は自分だけにしかわからず、周りに伝えるのはすごく難しいことです。

【「認知症世界」の旅人の声】
 わたしが感じている感覚を周りの人には理解してもらえない、と悩んでいることがあります。それはお風呂です。

 あるとき、自宅で入浴中に不思議な体験をしました。いつも通り39度にセットして、お風呂に湯をはったのですが、入ってみると、なんだかいつもと違う触感なのです。

 お湯がどうもヌルヌルします。入浴剤は入れていません。それなのに、何かが身体にまとわりつくようで、とっても気持ちが悪いのです。仕方がないので早めにお風呂から出て、シャワーで身体を流すことにしました。

「お風呂掃除のときの洗剤でも残っていたのかしら?」と思い、直前に入った娘に聞いても、「そんな感じしなかったけど?」と不思議そうに言います。

 翌日のお風呂は、わたしもそんな感じはなかったのですが、また違う日に同じようなヌルヌルを感じたり、またある日は熱すぎたり、逆に冷たいと感じることもあって、「なんか変だなあ」と思っています。お風呂は大好きだったのですが、こんなことが続いてからは、入ることが少し億劫に感じています。

 近頃では、なんとか以前のようにお風呂を楽しめないかと、自分の体調に合わせてお風呂に入るタイミングや方法を変えることにしました。長年、夜にお風呂に入るのが習慣でしたが、「なにも気持ち悪い思いや熱さを我慢してまで、入る必要はないじゃないか」と。

 夜、お風呂に入ったときに気持ちいいと感じなければ、すぐに出て、次の日の朝にお風呂に入ったり、シャワーだけで済ませたりするように切り替えました。