「フランスワインの売り上げがドイツワインを抜いて1位になったのは、1985年です。この年は、日本ソムリエ協会が最初のソムリエ試験を行った年であり、SOPEXA(フランス食品振興会 *1)が日本事務所をオープンさせた年でもあります。

 もっとも85年というと、ドイツでジエチレングリコール混入事件(*2)が取り沙汰された年でもあるので、その影響も無視できません。事件のせいでドイツワインが店頭から消えて、そこにフランスワインが入り込んだという要因もあるので」

*1 SOPEXAは、フランス産の農林水産物などの輸出促進を目的に1961年に設立された機関。日本では1969年にフランス大使館経済部内に連絡事務所が設置され、1985年にフランス食品振興会(SOPEXA)日本事務所として独立した。現在は民間企業Sopexa Japonとして活動している。
*2 オーストリアのワイン業者が、ワインの甘さを増す目的で毒性のあるジエチレングリコールを混入させ、西ドイツ(現ドイツ)などに出荷した事件

 とはいえ、ソムリエという存在がこの頃から広く知られるようになり、ワインに関するさまざまな付帯情報に日本人が興味を向けるきっかけとなったのは事実だ。

「特に、95年に田崎真也さんが、世界最優秀ソムリエコンクールで優勝し世界一になったことで、ソムリエという言葉が一気に浸透した。田崎さんは、ワインが決してハレの日の飲み物ではなく、肉じゃがや焼き魚など、家庭の食卓でデイリーに楽しめることを積極的に発信されました。それが、97年以降のワインブームにつながっていますね」

フランスは国策として
ワインの輸出を推進

 田崎氏をはじめ、ワインの楽しみ方の “伝道師”として ソムリエが果たした役割は大きい。

「でも、日本人がソムリエのいるレストランに行く機会はそれほど多くありませんよね。ワインがここまで定着したのは、ワイン愛にあふれた輸入・流通にかかわる業界関係者、そして各国・各地域の生産者団体の尽力も大きかったと思います。

 たとえばフランスは農産物輸出における最大品目がワインで、その構成比は16%。蒸留酒と合わせると24%にもなります(2018年)。イタリアやスペインも同じく、農産物輸出においてワインは最大シェアを占める。つまり国策として、ワインの輸出に力を注いでいるわけです。

 私はワインに限らず、輸入酒全般を担当していますが、やはり情報発信が一番多いのがワインだし、繁忙期になるとワインの生産者団体による試飲会やセミナーが連日のように開催される。最近ではEUの補助金を得てプロモーションをする団体や生産者も多いんですよ。EUはワイン生産においても輸出においても世界最大ですしね」