さらにコロナ禍前は、毎年のように来日する生産者も多く、インポーターとともに業界向けにはセミナーや試飲会、愛好家向けにはメーカーズディナーやパーティーを通して、造り手の声や思いを直接伝える機会も多かった。大手百貨店のシャンパーニュの催事では、造り手にサインをねだったり、一緒に写真を撮ったりする愛好家も多く、こうした活動もまたワインファンを増やす要素の一つだったのだろう。

ワインのラベルは
味わいを伝える世界共通言語

「どのワインを選んでいいか分からない」という層はまだ多いが、最低限の知識さえあればワインを選ぶことはそれほど難しくない。日本酒と違い、「ラベル」からそのワインのプロフィルがわかるからだ。

 ワインの外側に貼ってある表示(英語ではラベル、フランス語ではエチケットと呼ぶ)は、国ごとの税法の違いで多少の差異はあれど、産地やブドウの品種、収穫年など、得られる情報はほぼ共通している。

「ブドウ品種をラベルに記載するのは新世界のワインから始まったものです。それまでは、ボルドーとかシャブリとか、産地の名前が主流でしたし、その人気に便乗してシャブリを名乗る他産地の生産者もいたほどです。でも、品種名のほうが分かりやすく、選びやすいことから、その流れは世界的に広がりました。カベルネやシャルドネなどの国際品種はもちろん、土着品種といわれるその土地固有のぶどう品種もまた、造り手のプライドであり、ワインの顔となりますからね。

 ブドウの品種や生産国・地域が分かれば、造り手が誰であってもある程度の味わいがイメージできます。また、ボトルの形を見ても、ボルドースタイルかブルゴーニュスタイルかで、なんとなく味が想像できることもありますね」

 ワインと比べると、日本酒の場合は米の品種が味わいに与える影響は比較的少ないという事情はある。むしろ多くの蔵元は、米の性質を前面に出すより、米の性質に合わせて酵母の種類や製造段階を工夫して、米の足りない部分を技術で埋めるという発想に立ちがちという傾向も見られ、ワインにおけるブドウほどには、原材料が味わいを推し量るヒントとなりにくい面があるのは事実だ。

 それにしても、日本酒の場合はラベルから味わいに関する情報が得にくいと森田氏は指摘する。

「私自身、ワインならラベルを見れば味わいのイメージが浮かびますが、日本酒を買いに行くと、自分でワインを選べないという人の気持ちが分かります。今日はヒツジ料理を食べるからどんな日本酒を合わせようかといったとき、全然分からない。だからいつも知っている銘柄しか買えないし、専門店に行って、『前に飲んだこういう感じの……』と伝えて、お店の人に選んでもらうことしかできないんです。ただ、これは焼酎ブームの時にも起きたことですが、既に評価の高い希少銘柄に人気が集中して、入手困難になったり、値段が高騰したりする。

 もちろん、お店によっては味わいを表現したポップを用意しているところもありますが、ポップを見て新しい銘柄を試そうと思うまでにはなかなかいかない。ジャケ買いという手もありますが、せめてラベルやボトルに味わいが判断できるような要素があるといいと思います」