その後、そうした流れについての反省を踏まえることで、多少の改善がみられているとの報告もあります。一方、日本の現状は、そのアメリカに一周遅れて、さらに言えば文化の違いを踏まえずに、まさに自己肯定感を高めないといけないといった信仰のような強い思い込みにより、多くの人たちが苦しんでいるように思えてなりません。そんな風潮に流されないようにする必要があります。

自己肯定感と自己満足を混同していないか

 ここでとくに着目したいのは、「向上心」です。今以上の自分になりたいという気持ちです。人からみて、十分な実力や実績があるのに自己肯定感が低い場合、本人がもっと高いところに自己評価の基準を置いているということが考えられます。

 一方、人からみて実力からしても実績からしても自分の不十分さを感じてもよいはずなのに、なぜか自己肯定感が高いという場合、本人の自分に対する要求水準が低いということが考えられます。

 つまり、向上心が強い人の場合、自分に厳しい基準を課し、自分の現状に満足しないため、自己肯定感がそこまで高くならないということがあるのでしょう。逆に、向上心が低い人の場合、自分に求める基準が低いため、自分の現状に満足し、自己肯定感が高くなっているということもあると言えます。

 ゆえに、心理学者のデシとライアンも、自尊感情はただ高ければよいというような単純なものではないと言い、条件付きの自尊感情とほんとうの自尊感情を区別すべきだと言います。

 自尊感情の心理学の端緒を開いたとも言えるローゼンバーグは、自尊感情はありのままの自己を受け入れるだけでなく、成長し欠点を克服するという動機づけを含むものとみなしています。そして、自己満足には独りよがりも含まれるとして、自己満足と自尊感情を区別しています。