感動小説『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』では、「期待」「不安」「選択」「好意」「悪意」「女王」「迷い」「決意」という8つの物語を通じて、多くの人が抱えがちな不安や悩みの解決法を説く。この自身初の小説の刊行を記念し、小説を書くに至った経緯や物語に込めた思い、作品に出てくる珠玉の言葉の一部などをお届けする。

【初の執筆で珠玉の小説】<br />作家になった現役精神科医が得た<br />超進学校の学園祭での成功体験とは?イラスト:カツヤマケイコ

学園祭の成功体験がモチベーションに

高校の学園祭の演劇で書いた脚本は、近未来を描いたSF作品でした。

ざっと、こんな内容です。

人口が増えすぎて食糧難に陥った世界で、ある工場が無限に製造できる化学食品の製造に成功します。

その化学食品は栄養満点で、世界中どこにでも供給できるという夢のような話。

主人公の新聞記者がその話を聞きつけ、潜入取材をすると、実は亡くなった人間の死体を食品に加工しているという秘密を知ってしまい、企業から追われることになる、という筋書きです。

最初は「主人公が真実を知り、みんなに公表するために逃げ出す」というラストシーンを書きました。

しかし、そのまま逃げ出すのもつまらないと思い、逃げだそうとするところでヘリコプターの音が近づいてきて、捕らえられた瞬間に真っ暗になって幕が下りる、という演出にしました。

脚本を書いたあとは、別の人に監督の役割を託すつもりでしたが、誰も監督に立候補してくれず、結局は「脚本を書いたおまえが監督をやれ」という展開になりました。

人をまとめるのは苦手ですし、監督なんてできそうにありません。

けれど、「やれ」と言われたからには仕方がないので、やるべきことをノートにすべて書き出し、スケジュールを組み、大道具やリハーサルなど、いろいろな段取りを手配していきました。

とにかくやることが多く、当日までトラブル続きで、何度も夢に見て、夜中に目覚めるくらい追い詰められました。

不安な毎日を過ごしましたが、最終的にお客さんは大入り満員で大盛況。

最後にみんなの前で締めのスピーチをしているうちに、プレッシャーから解放されたことから、途中で言葉がつまり、涙が止まらなくなってしまいました。

それを見たクラスメイトがスタンディングオベーションをしてくれた光景が今でも忘れられません。

先に医者になって良かった

脚本を書く経験は大変でしたが、ストーリーを書くことは楽しかったので、いつか小説を書いてみたいとも思いました。

もし医者にならなければ、文学部に進学していたかもしれない、とは思います。

ただ、父が開業医であり、文系に進学したとしても職業のイメージがつきませんでした。

父に「医者になりません」と言う気にもなれず、「まずは医者になろう」と国立大学の医学部に進学しました。

結果的には、先に小説家を目指さなくてよかったと思います。

同じお悩み相談の文章を書くにしても、精神科医が書いたのかそうでないかで説得力が違ってきますし、医者をしているといろいろな人を診る経験があるので、書く素材には困りません。

最初から物書きを目指していたら、きっと挫折していたとも思います。
(構成:渡辺稔大)