理論で読み解く、モチベーションが湧かない理由
モチベーションに関する理論はマネジメント論においても大きなテーマであり、古くから近年に至るまで、さまざまな理論が提唱されている。
初期のものとしては、マズローの欲求5段階説やハーズバーグの衛生要因・動機づけ要因などが有名である。その後に出てきたのが、ブルームらによる期待理論、ウィグフィールドらによる期待-価値理論、ドゥエックらによる達成目標理論、デシらによる自己決定理論、そして自己決定理論の延長にあるピンクのモチベーション3.0などだ。
これらの詳細については『グロービスMBAミドルマネジメント』を読んでいただきたいが、今回のBについては、例えば達成目標理論で説明できそうだ。この理論は、かいつまんで説明すると、人間を動機づけるうえで3つタイプの目標があると考える。
1つは学習目標(熟達目標)で、自身の能力を伸ばしたい、新しいスキルを身につけたいといった目標である。残りの2つは近接的な遂行目標、すなわち自分の有能さを示したいという目標と、回避的な遂行目標、すなわち自分の有能さを否定されたくないというものだ。後者の2つは、要は、人は自分の有能さを示す課題には積極的に取り組むが、自分の有能さを否定されそうな課題には積極的には取り組みたがらないということだ。
今回の事例でも、Bは自分の有能さを否定されそうな課題である『ビジネス川柳』から逃げたがっていることが分かる。
自己決定理論による説明もできるかもしれない。この理論では、まず人間が自然に持つ以下の3つの欲求に着目する。
- 自身の「有能さ」を証明したいという欲求
- 周囲との「関係性」を良いものにしたいという欲求
- 自己の行動を「自律性」を持って自分自身で決めたいという欲求
そのうえで以下の5段階のステップを経て、内発的動機によって人は動くとするのがこの理論のポイントだ。
- 外的調整:指示やそれに伴う報奨や罰によって動く
- 取り入れ:義務感によって動く
- 同一化:自身で感じる必要性によって動く
- 統合:積極的に動く
- 内発的動機づけ:やりがいを感じ、楽しんで動く
編集者としてはまだ駆け出しとはいえ、決して新卒で就職したばかりではないBは、自律性を持って内発的動機から仕事をしたいという思いが強そうである。現実に部下の仕事をすべてそうしたもので満たすことは難しいが、前向きなホワイトカラー業務においては、この欲求をある程度は満たさないとモチベーションにつながらないのである。