なぜフィードバックしないのか
事例で示したようなことは決して珍しいことではない。日々こまめにフィードバックを行っておけば、正式な評価の場で食い違いが生じてトラブルになることは少ないのだが、それが往々にして起こってしまう。
フィードバックが適切に行われないのは、いくつか理由がある。
1つは、上司が忙しすぎてそれを怠ってしまうというものだ。インテルの創業者でもあり、そのマネジメント論をしばしば引用されるアンディ・グローブは、フィードバックはなるべくスピーディーに頻度多くということを提唱している。だが、目の前に多くの仕事のあるミドルマネジャーにとっては、実際にそうした時間をとりにくいのだ。
また、正式なフィードバックを行うまでもなく、日々のコミュニケーションで意図は伝わるだろうという錯覚もある。特に「阿吽の呼吸」がコミュニケーションにおいて重要な位置を占める日本企業にとって、こうした錯覚は起きがちなのだ。
それ以上にフィードバックがタイムリーになされない理由は、特に部下にとって耳の痛い「ネガティブ・フィードバック」は上司にとっても心理的負担であるため、そこから逃げてしまうというものだ。
褒めることは心理的な負担にもならないのでしやすい一方、ネガティブ・フィードバックは下手に行うと部下に嫌われてしまったり、職場の雰囲気を悪くしたりするのではないかという懸念も働く。その結果、そこから逃避してしまい、部下の行動変容やスキルアップの機会まで奪ってしまうのだ。本来はネガティブ・フィードバックこそが重要度が高いことが多いのだが、それが理解されていないケースは多い。
以降は、このネガティブ・フィードバックを適切に行うコツについてご紹介する。