認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社の取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論」だ。
リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか?
まず「自分自身のリーダー」になろう
以前の記事で、すごく優秀なのに「がんばって働く意味」がわからなくなった人の話を紹介したことがある。
リーダーとしてもプレイヤーとしても非常に優秀で、しっかりと結果を出しているにもかかわらず、「…それがどうしたんだろう?」という想いに駆られて、閉塞感を抱くようになったビジネスパーソンの話だ。
※参考記事
すごく優秀なのに「がんばって働く意味」がわからなくなった人の話
こういう状態を突破するうえで大切になるのが、「パーパスの自分ごと化」というプロセスだ。
つまり、自分が所属している組織のパーパスを確認し、自分のやりたいこと(根源的なWant to)との「共通項」を見つけていくのである。
一年の始まりにしろ、新年度の始まりにしろ、自分なりの「ゴール」を設定するときには、この「共通項」を意識する必要がある。
ここを外してしまうと、どこかのタイミングで「なぜがんばらなければならないのか」がわからなくなり、熱量の低い状態に逆戻りしてしまうからだ。
とはいえ、共通項をゴールとして設定するだけでは、「パーパスの自分ごと化」は完了しない。
重要なのが「共通項を自分だけのフレーズに変換し、臨場感を高める」というステップである。
このプロセスを通じて、自分が設定したゴールに対して臨場感を高めていくわけだ。
「現状の外側」にあるゴールへのリアリティを高めるには、まずゴールそのものの輪郭をはっきりさせる必要がある。
有効なのが、個人のゴールが実現された世界をありありと思い描くという方法だ。
脳にとっての臨場感はロジックを超えている。
「こういうデータがある。こういう環境がある。こういう資源がある。だから……」というエビデンスをいくら積み上げたところで、ゴール世界には没入できない。
そもそも、そのゴール世界は「現状の外側」にあるのだから、どうやれば到達できるのか、さっぱり見当もつかないものであるはずだ。
ゴール世界に対する臨場感を高めるには、ロジックを超えて、五感レベルでの整合性をつくり込んでいく必要がある。
そのためには、空想でかまわないので、ゴール世界を徹底的に鮮明に思い描いていくようにしよう。
表象内部での整合性が取れていれば、脳はその世界に現実らしさを認めるようになる。
このときのポイントは、視覚的な情報だけでなく、聴覚や体性感覚その他も含めた、なるべく多様な感覚情報(マルチモーダル)をイメージすることである。
詳細に至るまで、想像を膨らませて状況を鮮明に浮かび上がらせていくと、ゴール達成へのエフィカシーは際限なく強化されていく。
・自分のゴールを実現させたとき、朝どんなふうに目覚めるだろう?
・どんな服を着ていて、何に乗ってどこに向かうだろう?
・誰と喜びを分かち合っている? どんな表情をしている?
・周囲はどんな雰囲気だろう? 音楽は流れているだろうか?
・そのあと何を食べに行く? その料理はどんな匂い・味がする?
たとえば「DXを通じてものづくりに携わる人たちの誇りを取り戻す」というゴールを持つ人であれば、単にそのフレーズを心のなかで唱えるだけでなく、実際に彼らが満面の笑みで喜んでいる姿を想像してみる。
その想像が具体的であればあるほど、当人の行動は大きく変容していくだろう。
こうやって、自分と組織の双方にとって望ましいゴール世界に対して、然るべきセルフ・エフィカシーを獲得できたとき、あなたは組織やチームのリーダーである以前に、「自分自身のリーダー」になることができる。
これこそが、リーダーシップにとって何よりも重要なことなのだ。
自分の人生にオーナーシップを感じられない人間が、他者のリーダーになれるだろうか?
自分を内面から導けない人が、他者の内面を導けるだろうか?
そんなはずはない。まず変わるべきはリーダー自身だ。
だから、リーダーとしての現状に疑問を感じたら、何度でも自分にこう問い直してみてほしい。
「私はいま、自分自身のリーダーであることができているか?」
□ 組織のパーパスとあなた自身のWant toは、どんな価値観を共有しているだろうか?
□ 組織のパーパスも踏まえた、あなた自身のゴールを短いフレーズに落とし込んでみよう。
□ あなた自身のゴールが実現されたとき、周囲に広がっている景色や音、空気などをありありと想像してみよう。
※この記事は、『チームが自然に生まれ変わる──「らしさ」を極めるリーダーシップ』からの抜粋です。