篠田真貴子さんが絶賛した『チームが自然に生まれ変わる』をご存じだろうか? 同書は、新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「無理なく人を動かす方法」が語られた一冊だ。
リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

説明できますか?「業界トップになる」がパーパスと呼べないワケPhoto: Adobe Stock

「業界トップになる」が
パーパスと呼べないワケ

 企業や組織は、その根底に「こんな未来が実現するといいな」という未来像を持っている。

 これが明確に「“現状の外側”のゴール」として設定されたとき、それはパーパス(Purpose)と呼ばれる。

 メンバーが自律的に動くチームをつくるうえで大切なのは、「組織が実現したい未来」と「個人が実現したい未来」との接合点を探り、そこを「現状の外側」のゴールとして設定していくプロセスだ。

 組織のリーダーは、「組織が実現したい世界」と「個人が実現したい世界」とが重なる部分を見出し、それを個人のゴールとして設定していかなければならない。

 これを「パーパスの自分ごと化」という。

 パーパスの自分ごと化を進める際には、まず「組織のパーパスを確認する」プロセスが欠かせない。

 近年でこそ、理念経営が再注目されるようなトレンドがあるものの、ふだんから企業のミッション、ビジョン、バリューといったものを意識しながら働いている人はごくわずかなはずだ。

 所属企業がどんなビジョンを持っているのか知らない、覚えていないというケースが大半だろう。

 したがって、まず大事なのは「組織のパーパス」を明らかにすることである。

「自分ごと化」以前に、自分たちが属している組織はどんなパーパスを持っているのかをつかむのだ。

 パーパスの根底には、組織にとっての「実現したい未来」があると言ったが、それは中期経営計画などで策定される目標ではないし、ましてや年度ごと・四半期ごとの売上目標でもない。

 それらはあくまでも経営進捗を管理する数値目標にすぎず、「そのために企業が存在している」と言えるようなものではないはずだ。

「当社は3年後に売上総額100億円を実現するために創業された」と言われても、そこに納得感を抱く人はまずいないだろう。

 同様に「○○業界における売上ナンバー1を目指す」とか「××商品マーケットでトップシェアを獲得する」などもパーパスとは言えない。

 ここで問われているのは、「売上ナンバー1」とか「トップシェア」を獲ることによって、“どのような未来を実現したいか”だ。

 売上とかシェアは、その究極的な目的を遂行するうえでの「手段」にすぎない。

 そう考えると、やはり企業のパーパスを知るうえでは「経営理念」がうってつけだ。

 ウェブページや社史などで改めて自社のミッションやビジョンを確認してみよう。

 経営理念に込められたニュアンスがつかみきれなかったり、そもそもまとまった資料がなかったりする場合には、社歴の長い同僚や経営陣に直接聞いてみるのもいいだろう。

 ・自分が所属している組織は、どんな「現状の外側」を志向しているのか?
 ・どんな未来像を理想として持っており、どんな価値観を持っているのか?
 ・そもそもその組織の存在意義は何なのか?
 ・その会社がなくなることで、世の中からはどんな価値が失われるのか?

 こうした問いを考えてみながら、「組織のパーパス」の奥行きを理解していこう。

 経営理念に書かれた言葉(ステートメント)で思考を止めるのではなく、経営者がその言葉に込めた意味を自分なりに解釈していくようにする。

 なかなかうまくいかないようなら、自社の経営理念について同僚らと対話してみるのもいい。

「自分はこういう意味だと思うのだが、あなたはどう思うか?」といった意見を交換し合うだけでも、パーパスの自分ごと化はかなり促進される。

 この段階ですでに、自己のWant toと重なり合うポイントが見えてくる人もいるかもしれない。