認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社の取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論だ。
多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているいま、部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」が求められているのだろうか?

なぜ「謙虚すぎる部下」は危うい? 自ら才能を潰すタイプに要注意!Photo: Adobe Stock

才能を見えなくするもの

 リーダーにとって重要な仕事の一つは、チーム内のメンバーの根本的な欲求(Want to)を把握し、組織のパーパスとの接合点を見出していくことだ。

 前回は、そのためにいわゆる1on1などの手法が有効であることを論じてきた。

※参考記事
つい口にしていませんか? ダメな1on1に共通する「最初のひと言」

 とはいえ、リーダーの前で自分のWant toにうまく気づけない人は多い。

 ここでネックになるのが「謙遜」だ。

 たとえば、みずからのWant toを探っていく過程で、なんとなく自分にはリーダーシップがあるのかもしれないと感じても、「いやいや、私なんてリーダーの器ではありません」「自分はチームのためにコツコツとがんばるのが性に合っていますから」というような態度を取ってしまう人がいる。

 日本人にはいまだに「謙遜は美徳」という固定観念があるからだろうか。

「これが自分の才能です」と言い切る人はまだまだ少ない。

 さらに、自分を卑下するような振る舞いの裏側には、じつはその人なりの生存戦略があるケースもある。

 仮に自分のリーダー願望を正直に表明すれば、周りからのプレッシャーが高まるかもしれない。

 それを避けるために本音を隠し、謙虚な自分を装っている人もいるだろう。

 また、「リーダー職=面倒な仕事」という内部モデルに支配されている人は、とにかく厄介ごとに巻き込まれたくないという想いで、「私にはリーダーになる資格なんてありません」と言っていたりする。

 しかし、謙遜は非常に危険だ。

 本来はその才能があるのに、「自分にはそんな才能はありません」という態度を取り続けていると、しだいにそれが本人のコンフォートゾーンになってしまう。

「これといった能力はないけど、みんなに優しくて謙虚ないい人」を長年演じているうちに、本当に無能な状態を抜け出せなくなる。

 部下がそうなってしまう前に「あなたにはこんな才能がある」と気づかせることも、リーダーの大切な役割だ。

 たとえば1on1の場で、謙遜しがちなメンバーが「私は他人に流されがちでして……」などと言いはじめたら、リーダーの側としては「それって『仲間と調和しながら物事を達成する能力』とも言えると思いませんか?」というように、まったく別のアプローチで相手の才能を言語化してみるといい。

 このプロセスを繰り返すことで、メンバーはしだいに自分の真のWant toに目覚めていくことができる。

 謙遜と同じくらいWant to発見の邪魔になるのが「卑屈さ」だ。

 こうしたコンプレックス感情は、元をたどれば、幼いころに親に投げかけられた言葉などに行き着くことが多く、なかなか容易には振り解けない。

 親からの「あなたはコミュニケーションが得意なタイプじゃない」「おまえは人に優しくできない」といった言葉によって、実際に「口ベタな人」や「冷淡な人」がつくられたりしている。

「あんたはバカだから」と親に言われ続けたせいで、大人になってからも無意識に“バカキャラ”を演じ続けてしまう人がいたり、反対に「賢くならなくては……」というプレッシャーを感じ続ける人がいたりする。

 親の言葉というのは、人間の内部モデルに超大な影響を与える。

 ただし、外界からの情報を処理するプロセスは、あとからいくらでも変えられるので、諦めたり悲観したりする必要はまったくない。

 やるべきことは同じだ。

 本人を縛っているHave to(やらねばならないと思いこんでいること)を少しずつ振り解き、心からのWant toに気づくのをサポートしていこう。