ビル群βアクティビズムが社会に問いかけている領域は、気候変動だけでない。ジェンダーの多様性、所得の不平等解消、希少鉱物採取における公害解消、児童労働問題の解決など、幅広く、深遠で、そして難解だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

個別企業のパフォーマンスを追及する
「αアクティビズム」の終焉

 宇多田ヒカルさんが2017年に発表したバラード『あなた』の歌詞に、筆者はぎょっとした記憶がある。守りたい“あなた”と一緒に居たい場所を、「アクティビスト」の足音の届かない部屋、と表現していたからだ。

 その後、日本ではアクティビズムの嵐が吹き荒れた。希代の歌姫は、優れた感性で何かを感じ取っていたのだろう。『あなた』が発表された5年後の2022年、アクティビズムは、従来の「α(アルファ)」から「β(ベータ)」という新たなステージに入る。

 Harry Markowitz氏は、1952年に現代ポートフォリオ理論(MPT:Modern Portfolio Theory)を発表し、MPTはその後の株式投資の基本となった。MPTでは、株式投資の収益率が、個別企業のパフォーマンスであるαと、市場全体のパフォーマンスであるβの総和で計算される。

 MPTでは、αが追求された。投資家は企業毎の分析に時間を費やし、アクティビストは個別企業に対して収益拡大や株主還元を迫った。これらは、αを追求するアクティビズムであり、「αアクティビズム」と言える。

 2021年春、Jon Lukomnik氏とJames P. Hawley氏は、一冊の本を出版した。『Moving Beyond Modern Portfolio Theory』と題する彼らの著書には、戦後の株価投資の収益率におけるαの増加率は、βの増加率の数分の一に過ぎないことが示されていた。