後半でも、面白い問題提起を繰り出すのは最も若い井深だ。例えば、あらゆるものが機械化され、電子計算機(コンピューター)が普及した未来では、「状況判断は、電子計算機がすっかりやってくれる。そうすると最後にやるのは決断だけなんですね」と井深は言う。コンピューターは判断に必要なデータは出せるが、決断はできない。それをするのが人間であり、企業トップだというのだ。
そして経営者に必要なのは「何をやるか」という決断より、むしろ「同時に何をやめなければならないか」という判断を下すための基準を持つことで、それができていない企業が多いと嘆く。では「やめる基準」とは何か。「今新しくその仕事をおまえさんは始める元気があるか、それがないのだったらその仕事はもうやめる方向に向かうべきだ」と井深は言う。
ソニーを代表格に、日本の電機メーカーは2000年代初頭、不採算事業を切る決断ができず、延々と赤字を垂れ流してきた経緯がある。一方で、革新的な新事業を生み出すことはできず、GAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック〈現メタ〉、米アマゾン・ドット・コム)のようなテック企業の後塵を拝した。座談会の前半で井深は、経営者は大株主であるべきで、サラリーマン社長では革新性は発揮できないと言い切っていたが、その発言と併せても実に含蓄に富んでいる。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)
社長業の楽しさは創作と完成
政治にはない「割り切れる喜び」
――仕事上のことですけれども、社長の楽しみと悩みといったことについて一つ。
竹中 自分の思ったことができれば一番楽しい。やり損なったら逆に悩みになる。しかしこれはいけないということがはっきり分かれば諦めるが、中途半端なやつが一番の悩みだな。事業家というものはみんなそういうものではないかな。
加藤 それで生きているようなものではないですか。自分の創意がともかく生かされるということでしょうね、楽しみは。
――事業欲というところに、大きな楽しみがあるんでしょうね。