【著者からのメッセージ】
本書では、金融の呪いという概念についてより深く理解するため、1世紀ほど遡り、当時の世界から俯瞰していきたい。それは、20世紀初頭のアメリカの泥棒男爵とも呼ばれる悪徳資本家集団の時代に始まり、1950年代の大英帝国の崩壊、その後シティのグローバル金融センターとしての再生を経て、1960年代におけるカリブ海諸島の英領タックスヘイブンの誕生、そして1970年代から80年代にかけての、アイルランドの「ケルトの虎」経済の初期のルーツを探り、その後のグローバル経済危機を誘発する原因となったロンドンの果たした重大な役割など、これまで語られてこなかった驚くべき真実を明らかにしていく。そして、経済危機の後は資産運用マネジャーの奇妙な世界に分け入る。

さらには、億万長者のための欺瞞に満ちた逃げ口上や、巨大な権力を手にした大手会計事務所の調査分析を行い、北イングランドの介護職員に始まり、それとは対照的なメイフェアにまばゆいオフィスを構えるプライベート・エクイティの大物へと至る企業の複雑な足跡を追ってゆく。

その過程で、どのように事実が否定され、歪められ、誤用されたのか。また、これらすべてが普通で、かつ必要な活動であり、さらには良いことだと民衆を説得するためにでっち上げられた情報であったことなどが見えてくる。もはや、目的のためには何でもやる世界なのか?

世界を貧困に導く ウォール街を超える悪魔 告知情報

【目次より】
序章 少額の手数料から見えてくる金融化現象

豊富さゆえの貧困
金融セクターの肥大化がコスト高をもたらす
「競争力」強化というまやかし
第1章 資本家による破壊工作
調査報道の草分け、イーダ・ターベルの暴露記事
国家による破壊工作
第2章 国境を超えた新自由主義
ケインズが警鐘を鳴らした国際金融の危険性
新自由主義の反撃
移転コンサルタントが仕掛ける詐欺
国同士、税制同士の「競争」は善か?
第3章 第二の大英帝国誕生か?
イギリス経済の最盛期は、シティの衰退期
イングランド銀行職員の極秘メモ
2つの顔を持つオフショア・ビジネスモデル
第4章 見えざるゲンコツ
反独占の精神
骨抜きにされる反トラスト法
合併買収は最も儲かるゲーム
ブレーキを外したレーガン大統領
第5章 第三の道
左派政治家の「救命ボート」
新生労働党の勘違い
「国家の競争力」という欺瞞
EUも「競争力政策」に洗脳されている
法人税率を引き下げ続けた英政府
第6章 ケルトの虎
金権政治家、ホーヒー
アイルランドのオフショア化
「どこにも存在しない」幽霊会社
死後、明らかになったホーヒーの金融帝国
アイルランドの2つのタブー
第7章 ロンドンという抜け穴
大西洋を渡る金融詐欺師たち
銀行の自己資本比率引き下げへの誘惑
膨張していく証券化商品
崩壊する金融規制
リーマン・ブラザーズ倒産のメカニズム
シティはグローバル金融の無法地帯
「ウォール街の連中が善人に見える」
第8章 富とその鎧
信託という「要塞」
個人仕様のタックスヘイブン
資産運用産業の成長
信託受益者の不幸
資産マネジメントは最も不幸な産業
第9章 プライベート・エクイティ
「他人のカネ」で遊ぶゲーム
借入で会社を潰し、自らに還流させる
搾取される介護士たち
利益を搾り取る手法
PEのゼネラル・パートナーだけが儲かるルール
なぜPEに投資するのか?
第10章 搾取者の進軍マーチ
地方からロンドンへ吸い上げられる富
政府を食い物にする外注先企業
金融熱狂の「スーパー・スプレッダー」
泥棒に家の鍵をつけてもらうような愚行
第11章 エビデンス装置
カンザス州の失敗
法人税減税の代償
エビデンス装置をめぐる闘争
永遠のブラックボックス
「政治」と「民主主義」を道標に
終章 金融を社会に貢献するものとするために
シティの危険なゲーム
不毛な競争からの「一方的」離脱
新たな行動を起こす