タックスヘイブンの実態を追及するイギリスのジャーナリスト、ニコラス・シャクソンが、社会、経済、政治を世界的に支配し、大多数の犠牲の下にごく少数の人々だけを富ませてきた「金融の呪い」について解き明かした『世界を貧困に導く ウォール街を超える悪魔』が遂に日本でも出版された。
世界的に広がっていく格差、不平等は、実は一部のエリート層によって意図的に仕組まれたものだという不都合な真実を丹念な取材を重ねて綴り、フィナンシャル・タイムズ ECONOMICS BOOK OF THE YEARの一冊にも選ばれた『世界を貧困に導く ウォール街を超える悪魔』から一部再構成して紹介します。
ジャーナリスト
タックスヘイブン、金融、資源問題を中心に、フィナンシャル・タイムズ紙、『エコノミスト』誌などに寄稿している。NGO団体、Tax Justice Networkの一員でもある。
著書に『Poisoned Wells: the Dirty Politics of African Oil』(未邦訳)、『タックスヘイブンの闇』(朝日新聞出版)などがある。
金融セクターの肥大化がもたらす負債
誰にでも金融は必要である。請求書の支払いや退職後に備えての預貯金、その預貯金を有望なビジネスに投資したり、予期せぬ事態や災厄に備えて保険を掛けたり、時には目先の変わった有望な投資機会を嗅ぎつけた投機家にとっても金融は必要である。
しかし、だからといってこれらが金融セクターのあるべき適正規模や、その果たすべき役割を示唆するものではない。
我々の経済にとっての金融のあるべき姿とは、それを必要とする我々に有用なサービスを適正なコストで提供してくれるかどうかであって、巨額の利益や高給取りを量産することではない。
それを理解するには、電話会社を例にするとわかりやすいだろう。もしも電話会社が急に想像を絶するほどの利益を上げ始め、多くの億万長者を輩出するようになり、通信が他のすべての経済セクターの成長を阻害するようになってしまったとしよう。その一方で、通信の質は悪く、回線は不安定なのに、料金は相変わらず高いままでサービスは頼りないとしたら、何かがおかしいことは明白だろう。
金融および金融化の登場と隆盛は、単にゼロ・サム・ゲームのように、貧しい大衆から金融セクターの少数のプレーヤーへ富を移動する現象ではなく、長期にわたりマイナスになるネガティブ・サム・ゲームなのだ。
多くの最新の研究や証拠から明らかになりつつあることは、国における金融セクターが一定の規模を超えて肥大化し始めると、本来の有用な機能から乖離し始め、より儲けやすく有害なゴールを目指して走り出すようになる、ということだ。