人の力を引き出す「方策」が、
文化として根付いている

稲田 今回の話もそうですが、磯谷さんから伺う話はいつも、書籍などでも読むことのない内容や、違う切り口からの話が多いです。

磯谷 そうかもしれない。明治に入ってモーターができて、ものづくりも変わった。昔から手織りの織物があったけど、モーターが工場の動力源に入ってね。さらに米国から科学的操業法とか、精神的操業法というのが入ってきた。

稲田 先ほどもおっしゃられた、その科学的操業法、精神的操業法と言う言葉も、今回、はじめて伺いました。

磯谷 当時の紡績業では、人間性尊重の上での作業管理、工程管理などについても深く、研究されていた。例えば、その科学的操業法のひとつの工程管理は、無駄の排除と多工程待ちで、原綿の入荷から商品出荷までのリードタイムの最短化を追求していたし、もうひとつの作業管理では、無駄の排除や整理整とんによる正味作業を追求し、標準作業を構築していったんだ。

稲田 トヨタ生産方式の中で展開されている手法は、当時の紡績業の現場ですでに追求されていたのですね。

磯谷 うん。また精神的操業法では作業に従事する現場に、いかにやる気を持たせるかの追求と研究、実践も行われていた。当時の紡績業は、ものすごく進んでいたんだよ。大野さんも豊田紡織に入って、いろいろ勉強されたと思う。

稲田 当時から、人の力を引き出すための研究と実践がなされていたのですね。今、世の中にはカタカナを使い、表面上の装飾をかえた言葉が出回っていますが、トヨタの組織で実践されていることを見れば、横文字の言葉などなくても、人の力を引き出す「方策」が文化として根付いていることがわかりますね。

磯谷 そうだね。「心」の部分が根付いていると言える。

稲田 これまでの話をうかがっていても、大野さんは、厳しかったのでしょうが、真摯であり、かつ、レベルの高いマネジャーでもあったことがよくわかります。

磯谷 そうそう。

つづく