サントーニャのレストランで供されるサーディンの焼物サントーニャのレストランで供されるサーディンの焼物

 北岸の巡礼路の話をしたら、海の幸にも触れないわけにはいきません。スペイン北部海岸沿いに住む人なら「スペイン最高の魚介類はカンタブリア海で採れたもの」と言うでしょう。穏やかな地中海とは違い大波がうねる大西洋で育った魚介類は高額で取引されています。魚介類が大好きなスペイン人のなかでも一番の人気メニューはパリリャダ・デ・マリスコス(海鮮BBQの意)で、新鮮なシーフードBBQが大皿に豪快に盛り付けられた姿は圧巻です。海岸線に点在する小さな漁村にあるレストランのテラス席に座って、カンタブリア海の絶景を眺めながら、ガリシア産のフルーティな白ワイン「アルバリーニョ」と一緒に楽しむことをおすすめします。

カンタブリア海で取れる絶品のアンチョビカンタブリア海で取れる絶品のアンチョビ

 もうひとつ忘れてはいけないカンタブリア海を代表するグルメ食材といえばアンチョビです。その昔、シチリア島の漁師達が美味しいアンチョビを作るために最高のカタクチイワシ(アンチョビの材料)を探し求めてたどり着いたのがカンタブリア海であり、アンチョビの聖地といわれるカンタブリア州サントーニャ村ではこの地に移り住んだイタリア人の子孫たちが世界最高のアンチョビを製造しているそうです。地元で水揚げされた新鮮なカタクチイワシを素早くカットし塩漬けにして長期熟成します。熟成されたアンチョビはピンセットを使ってていねいに骨を抜き、オリーブオイルに浸して缶詰/瓶詰されて更なる熟成を行います。高級食材アンチョビは海の生ハムともいわれ、熟成をコントロールするためにスペインでは冷蔵保存が義務付けされる繊細な美食材です。日本では滅多にお目にかかれない貴重なアンチョビを味わっていただきたいものです。

レオンのバルではワインを頼むたびにおつまみがひと皿付いてくる!レオンのバルではワインを頼むたびにおつまみがひと皿付いてくる!

 こうした自然、歴史そして食などすべてにおいて新鮮な驚きに満ちた北スペインですが、昔日の繁栄は遠い昔のこととなり、現在は静かで緩やかな時間が流れています。アストゥリアスの州都オビエドはマドリードからは電車やバスで5~7時間はかかる距離にあるため、一般のツーリストのルートには組み入れられることは少なく、その魅力に触れる機会も限られていると思います。編集部では、マドリードからあえて陸路にてカンタブリア山脈を越えることで、荒涼としたカスティーリャ地方の台地とグリーンスペインの違い、その雄大さと意外性を発見していただく旅のルートをおすすめ。遠路のため途中、古都レオン(カスティーリャ・イ・レオン州)に1泊しましょう。この町は歴史的価値のみならず、「タパス」文化の中心地のひとつ。ワインを1杯たのむごとにタパスがひとつタダで付いてくるという、食いしん坊には天国のようなバル文化があり、グルメツアーのプロローグとしても気分が上がること間違いなしです。

珍しい牛の生ハム「セシーナ」珍しい牛の生ハム「セシーナ」

 美食の町レオンを訪れる際にぜひとも食していただきたいのが「セシーナ」と呼ばれる牛肉の生ハムです。牛のモモ肉を塩漬けして、オークの木で燻製し、その後セラーで長期熟成させたセシーナは、レオンを代表する伝統的なグルメ食材です。長期熟成された高級セシーナはスペイングルメの雄、ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ(最高級のイベリコ豚の生ハム)にも劣りません。同州産の赤ワイン「リベラ・デル・ドゥエロ」と合わせるのが地元っ子の粋な食べ方だそうです。日本では未だ知られていない牛の生ハムをぜひお試しあれ。

アルタミラ洞窟の壁画(レプリカ展示)。教科書でもおなじみアルタミラ洞窟の壁画(レプリカ展示)。教科書でもおなじみ

 アストゥリアス州からは大西洋岸を東へ進み、カンタブリア州、バスク州へと巡るルートをおすすめします。西のガリシア州に向かえば巡礼路の終着地サンティアゴ・デ・コンポステーラへ到達でき悩ましいところですが、これは「巡礼の旅」として次回の訪問にとっておきましょう。東へ向かう旅路には中世の面影を色濃く残す小さな町サンティリャーナ・デル・マル、グッゲンハイム美術館のあるバスク最大の都市ビルバオなど魅力的な町が点在し、旅のゴールは言わずと知れた美食の地サン・セバスティアン! 大西洋カンタブリア海に面したこのルートは、一般に知られるスペインとは全く異なる絶景が展開され、この国の変化に富んだ、あらたな魅力を知る絶好の機会となるでしょう。

 道中、知られざる北スペイン3つのガウディ建築、あるいは先史時代の動物壁画で有名な「アルタミラ洞窟」に立ち寄ったりと、数多くの歴史・文化・芸術に触れることも欠かせません。先史時代からケルト、初期キリスト教文化、中世巡礼路、近代のモデルニスモ建築、そして現代美術建築などなど、本当に盛りだくさんで魅力的なエリアです。アタマもカラダもココロも(そしてもちろん胃袋も!)満たされまくりの旅。北スペインの魅力にどっぷりとハマってしまうこと間違いなしです。