『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾン本社の経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本として大きな話題になっている。
アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした、画期的な一冊だ。
本稿では『アマゾンの最強の働き方』より、「採用」について語った部分を紹介する。

採用の失敗より「会社に居続けられる」方が怖い理由Photo: Adobe Stock

無秩序な採用面接が横行している

 アマゾンの元バイスプレジデントからこんな体験談を聞いた。

 彼はアマゾンに来る前に、数十億ドルの売上を誇る国際的テクノロジー企業のCOO(最高執行責任者)のポジションに応募した。

 面接を行ったCEOは、次々と脈略のない質問をぶつけてきた。どれも採用の判断に役立ちそうにない内容だった。そしてCEOは、長い沈黙のあとにこう言った。

「あなた自身について、履歴書を読んだだけではわからないことを何か話してもらえませんか」

 そのCEOは、こう言っているのに等しい。「わが社はどんな人材を求めればよいのか、わかっていません。どこを見て評価するのがいいか、教えてくれませんか?」(中略)

採用は企業の命運を左右する

 重要なポジションの採用は会社の業績を大きく左右する。採用活動に必要なコストや労力を考えれば相当なものだ。それなのに、採用に関して、しっかりした分析的手法を確立していない企業が多いことには驚かされる。採用は企業にとって生命線ともいえる意思決定なのに。

 上記で紹介したアマゾンの元バイスプレジデントが、テクノロジー企業のCOOに就任していたら、会社の業績を大きく改善するような戦略的決断を下すことができていたはずだ。

 仮の話として、そのテクノロジー企業のCEOが、同じくらい重要な別の決断を下す場面を想像してみよう。

 たとえば、新製品の生産工場に数百万ドルの投資をすべきかどうかという決断だとする。彼は経営チームを集め、詳細な分析を指示するに違いない。そして、正しく判断するためには、どんな情報が必要で、何を問うべきか、慎重に考えるだろう。会議のための準備に何時間もかけるはずだ。

 ところがこのCEOは、採用面接には何の準備もせずに無手勝流で臨んだ。候補者が適任かどうかを判断するのに必要な情報は何かということさえ考えていなかった。

 CEOはこの怠慢によって、応募者を評価できなかっただけでなく、将来の貴重な戦力を失った。その後アマゾンのバイスプレジデントになった彼は、この面接での経験を1つの判断材料として、自ら応募を取り下げたのである。(中略)

居続けられるとどうなるか?

 採用上の判断ミスは必ず損失を生む。

 採用したのは間違いだったとすぐに判明し、その人物が短期間で去ってくれるなら、まだ損失は小さくてすむ。それでも短期的には痛手だ。ポジションの空席状態が長引くかもしれないし、面接担当者たちの時間も浪費されたことになる。優秀な候補者を遠ざけてしまったかもしれない。

 最悪なのは、不適格な社員が会社に居続けた場合だ。

 その社員は誤った判断を下し、いくつもの弊害をもたらす。チーム全体の水準を引き下げる足枷となり、会社を去ったあとも残る長期的損失をもたらす。ジョー(注:本書で前出。拙速なプロセスで採用された社員)の採用に伴う長期的損失がどのようなものであれ、彼を採用した上司のリアとそのチームは自分たちが犯した過ちの代償を支払うことになるのだ。

 実際、そうなった。

 ジョーが職務をまっとうできないことが判明し、ほかのメンバーたちは何時間も余計に働くことになった。彼ができない仕事を肩代わりし、彼の失敗を取り繕うはめになった。

 採用から半年後、ジョーはリアと話し合い、自分が適任でないことを認めて去って行った。

 チームは相変わらず時間に余裕がない状態で、誤りを繰り返すのではないかという不安を抱きつつ、採用プロセスを一からやり直すことになったのである。

(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)