理解力を飛躍的に上げる「たった四つの分析」の威力Photo:PIXTA

今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。先日、日本を代表する学術賞の一つ、山本七平賞を受賞した。著者の太刀川英輔氏は慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化と創造性には共通の構造がある」ことを見いだした。創造性を発揮するには注意深い観察力が大切になるが、実はこの観察の手法はあらゆる発想の領域で共通しているばかりか、全て生物学の中で何百年も前から体系化されている。物事を観察するための本質的な方法とは何か、進化思考で読み解いていこう。

観察と分析の本質

 こんにちは。デザインストラテジストの太刀川英輔です。生物の進化から人間の創造性の本質を学んで、誰もが発想できるようになる手法、進化思考を提唱しています。

 進化思考をざっくり説明すれば、生物進化と同じようにエラー的な変異と、本質的な適応の往復を思考の中で実践すること。それによって誰もが天才的な発想をすることが可能になります。本連載ではこれまで、創造性にとってエラーがどれほど大切かを解説してきました。しかし偶然だけでは不十分。未知のエラーが生まれたら、本質的な観点で、その良しあしを判断して、適応させていくことができなければなりません。

物事の本質を捉える力を身につける本質的な意味での秀才性=適応の思考は、どうすれば獲得できるのだろう。世の中の不思議を解き明かしていく思考力と言い換えてもいい。未知の出来事に向かい合って、その周囲にある関係性を読み解く力だ。(進化思考 P37から)

 未知のものを理解しようとする時、皆さんはどうしますか。自分だったらこうかな、という答えはあっても、その具体的かつ科学的な方法を聞かれたら、自信を持って説明できないのではないかと思います。残念ながら現在の教育では「分からないものを分かる練習」は、ほぼ全くできていないのだから、そうだとしても仕方がありません。

 実際に生きていれば、社会は分からないことばかり。世界の仕組みは複雑に絡み合っていて、一つの製品の仕組みですら完璧に理解するのは困難です。スマートフォンの中身から人体の細胞の働きまで、我々は分からない不思議なものに頼って生きています。ホモサピエンスが誕生した約20万年前から今日まで、ずっと私たちは未知の事柄を理解しようとしてきました。こうして人はそのための理解の手法も同時に磨いてきました。それが現在のさまざまな分析手法です。