「何を話そうか」と前もって考えないほうがいい理由

他人と物理的・心理的な距離が広がり、「1億総孤独」といえる現代。他者に依存せず、「個」として自立するには、どうすればいいのでしょうか。寺田倉庫の経営改革などを果たし、NHK「SWITCHインタビュー達人達」でコシノジュンコ氏と対談し話題となった「77歳・伝説の経営者」、中野善壽氏は、「孤独を生きることで、自分の感性を信じ、磨き抜くことができる」と語ります。中野氏は孤児同然の幼少期を過ごし、孤独のなかを生きてきました。しかし、そこで自分の感性を磨き、「個」として自立していきます。社会に出てからは「孤独を武器」に、伊勢丹・鈴屋での新規事業展開や、台湾企業の経営者として数々の実績をあげてきたのです。本連載では、中野氏の新刊『孤独からはじめよう』に掲載されている「他人に依存せず、自立して、素の自分をさらけ出して生きる」51の人生哲学から抜粋。「一人で生きるのが当たり前の時代」に肩肘を貼らず、自分に期待し、颯爽と人生を楽しむ考え方を紹介します。

予定通りの決めごとは、つまらない

僕は人前で話をするときには、最初から「お題」を決められるのが何より嫌い。

「話のお題を先に決めないと始められません」なんて強く言ってくるところは、こちらから願い下げです。僕流を感じてほしいのです。

なぜなら、その日に話したいことは、その日、その時、その場所に集まった人たちと顔を合わせて、目を見て初めて決まるから。

わずかな瞳の動きや、頬の力の入り具合をパッと観察して、「こんな話をしたら喜んでもらえそうかな」とアドリブで話し始めるのが僕のスタイル。

そのほうがずっと面白い話ができるし、皆さんも楽しんで帰ってくれる。

予定通りの決めごとを話しに行ったって、つまらないじゃないですか。

思い返せば、四十七歳で台湾に渡り、次の仕事を見つけたのも、即興で話したことがきっかけでした。

日本のファッション文化を築いた会社、鈴屋の成長期にたくさん面白い仕事をさせてもらい、充実した時間の中で鈴屋を去る時がきたのです。

その後、たまたまトランジットで降り立った台湾の空気が気に入って、そのまま住み着くことになったという次第は、前著『ぜんぶ、すてれば』でも書きました。

街歩きをしていてふらりと入った建物が台湾政府の経済部で、たまたま通りかかった女性（後に要職の方だったとわかりました）に助けられて紹介されたのが、台湾の中小企業経営者にビジネスの方向を教える講師の仕事。

突然「教授」と呼ばれ、週五日、毎日四コマの講義を持つことになったのですが、この時も、話す内容は毎日即興。

テキストなし、シナリオなしで、ものづくりや流通、組織運営、歴史や文化など好きなように織り交ぜて、誰よりも僕が面白がって話をしていました。

これが好評を呼び、生徒が増え、熱心な生徒の一人から「うちの会社の顧問になってほしい」と声がかかって最初に関わることになったのが、台湾の大手財閥系コングロマリット、中国力覇集団。その後、遠東集団に移りました。

いずれも経営陣の一人として迎えられ、ダイナミックな新規事業開発に挑戦できたのは、とてもやりがいのある、ありがたい機会でした。