「セーフティーバント」でも
得点につながる商品開発を重視

 1970年に大塚化学から当社社長に就任した大塚正富元社長(現在は特別顧問)は、「ごきぶりホイホイ」「アースノーマット」などのロングセラー商品を開発しました。

 大塚正富元社長が唱えたのは「世の中にないものを作れ」です。それは全くその通りですし、どのメーカーもそう考えて商品開発を行っているでしょう。

 しかし、世の中にない商品を作ることは、いわばホームランを打つようなものだと思っています。

 今ほどモノにあふれていない時代であれば、「あったらいいな」と思える商品を考え、ホームランを狙って打席に立つのもいいでしょう。

 ところが、モノにあふれている今、ホームランばかりを狙っていたら、なかなか得点は取れません。

 したがって、セーフティーバントでもいいから塁に出て、得点につなげることを繰り返す必要があります。

 では、どうすればセーフティーバントで出塁できるのか。

 その一つとして挙げられるのは、「世の中にある、どんなに売れている商品であっても、完璧な商品はない」という視点で商品開発を行うことです。

 当社の商品もそうです。100%完璧な商品は世の中にはなく、必ず不満点があります。それを見つけ、課題を解決し、改良した商品を出す。

 改良といっても、それほど大きなものでなくてもかまいません。

 たとえば、当社のオーラルケア用品の「モンダミン」のキャップです。

 以前のキャップはつるつるでしたが、今の商品は横にスリットが入っており、開け閉めの際に指が滑らず、使いやすくなっています。

 たかがスリットと思うかもしれませんが、金型を変えるのでお金はかかりますし、大々的にアピールするほどの変化ではありません。それでも、「モンダミンのキャップっていつの間にか開けやすくなったよね」と、わかってくれる人はわかってくれるし、こうしたことの積み重ねが、顧客満足度の向上につながると考えています。

 研究開発担当者からすれば、たとえば洗浄力をより高めた商品を作りたいとか思うかもしれません。それはもちろん大事ですが、一方で、使いやすさなども同じく重要です。これらを全部含めて一つの商品なのです。そのため、私が社長になって以降、容器などの設計に人間工学を取り入れました。

 さらに、顧客目線の商品開発を強化するため、数年前にお客様相談室を社長直轄の部署とし、お客様の声が直接経営に届く体制に変更しました。そもそも「お客様相談室」というのも名称に違和感があったので、昨年4月から「お客様のお気づきを活かす窓口部」に名称変更しました。

 お客様が大事だという社員の意識を高めるとともに、お客様からの声や気づきを、どんどんモノづくりに生かしたいと思っています。

 こうした地道な努力を続けることが新たなヒット商品の開発につながりますし、当社ではセレンディピティー(思いもよらない出会いや発見)という言葉をよく使うのですが、努力を積み重ねる中でのふとしたひらめきからホームランが出ることもあります。

 だから、世の中にある商品の不満点や課題を、自社製品も含め、よく見るということは非常に重要だと思っています。

>>【第2回】『なぜアース製薬社長は、社員に「どんどん失敗しろ」と言い続けるのか』に続きます