「ニワトリが先か卵が先か」といったところではありますが、日本企業は人材を引きつけ、引き留めるだけでなく、確保した人材を生かせるようにして、そのためにかかるコスト以上に価値を生むことを考えなければなりません。逆に価値がきちんと生まれたならば、その源泉が優秀な人材の活用にあるということも分かるわけです。すると「より優秀な人材を獲得しよう」という好循環が働くようになります。
米国のテクノロジー企業ではこれができていますが、多くの日本企業では、このどちらもできていない状況です。まず、ジョブ型雇用の仕組みをつくって少し報酬を上げたとしても、特別な数人しか対象にできていません。また、対象となる人の大量採用や、社内のめぼしい人材のスカウト(移管)もできておらず、単なる今いる人材の引き留め策になっています。これでは、よりよい価値を生み出すことにもつながりません。
これら企業が人材獲得において抱える状況には、今、日本の社会全体が抱えている「フラットな状態での最適化」といった状況と重なる構図があるように思います。
成長しないものを守るばかりでは
新しい人や組織は生まれない
もうひとつ、日本企業が分配としての賃上げに躊躇する原因としては「雇用の確保」という観点が挙げられます。これは、欧米では解雇をする代わりに賃金も上昇する傾向がある一方で、日本では雇用確保の方向性が強いために賃金が上がらない傾向があるのではないかという話です。それぞれに一長一短はあるのですが個人的には、長い時間軸で見ると結果として日本は間違った方向へ行ってしまったのではないかと感じます。
なぜなら、この傾向によって日本では失業の心配があまりなく、社員が自身を成長させて変わる必要がない状態になっているからです。そのうえ組織としても、その社員の居場所を確保し、雇用を継続させるために、その人の仕事を残さなければならない、というかたちに働きかねません。
ネット上ではときどき「Excelマクロで仕事の効率化をしようとしたら、『誰々さんの仕事がなくなるから余計なことをするな』と言われた」といった話を見かけます。作り話か本当にあったことかは分かりませんが、おそらく似たようなことは実際にかなり起きているのではないかと思います。