世界を見渡せば一定のインフレが進む先進国の中にあって、日本だけは物の価格を抑制する方向へと動いています。東京では物価が安いため、そこそこの金額でも暮らせますが、ニューヨークでは同額では生活にも困るような状況です。この状況が続く限り、日本を市場とする企業にはコスト削減がひたすら求められます。そこで、人件費も抑えたいという意識が、経営者側に働いているものと思われます。

 資本主義というのは、基本的には経済をどんどん拡大させていく仕組みですが、日本の場合はなぜか、企業も一般国民も、値上げも賃上げもないフラットな状態にひたすら最適化されているようなイメージがあります。しかし、先ほどのニューヨークと東京との対比にもあるように、単に日本国内で企業や国民が過ごしやすいということだけでは済まないのが、現代のグローバル社会です。

 ビジネスを行うにあたっては、サプライチェーンにしてもバリューチェーンにしても、グローバルでやり取りが発生します。日本の物価が安いことがプラスに働くこともありますが、マイナスに働く部分も多く出てきているのではないでしょうか。

 特に人材の流入・流出という面では、今やグローバルでリモート勤務が可能な時代です。日本人に今払っている賃金では海外の優秀な人材は働いてくれないということが、現実になりつつあります。中国を例にとれば、中国から日本へ来るよりも中国国内で働いた方がよい、あるいは中国から別の国の企業の仕事に遠隔で就いた方がよいといったことが、すでに起きています。これらはやはり、人件費における日本の競争力のなさ、賃金が低いことにより優秀な人材を引きつけられなくなっていることの証左といえるでしょう。

「フラットな状態への最適化」は
企業の人材獲得状況にも重なる

 賃金の高さと人材の獲得力との相関は、国と国との間に限った話ではなく、企業対企業でも言えることです。特に私が技術支援するIT業界では、ソフトウェア人材の給与は高騰しています。外資系企業が日本企業より1.5倍から2倍の金額を出す例はもちろん、スタートアップが大企業より高いオファーをエンジニアに出す例も出てきています。優秀な人材を引きつける、あるいは引き留めるためには、雇用条件の中でも重要なファクターである報酬、すなわち人件費を上げて競争力を高める必要があります。