多細胞生物においては、細胞が自分の役割を終え、不要になると自ら死滅する「アポトーシス」という、プログラムされた細胞死が起こります。組織においても同様に、役目を終えた仕事、事業を一度死滅させ、そこから再生していく必要があると考えます。でなければ、今あるものを死なせたくないがゆえに、新しく生まれてくるものが足かせだらけで成長できない状態になるでしょう。

 一度失敗して、あえて死滅させた仕事や事業であっても、その失敗を糧に再度立ち上がって新たな仕事や事業で再生すればよいと私は考えています。ところが、日本ではその失敗に対する目が厳しいという点も気になるところです。

トヨタがいろいろな
選択肢を用意するワケ

 現代は「不確かな時代」です。トヨタが2030年までに新型EVを30車種投入すると発表しましたが、会見で豊田章男社長は「今は何が求められているか分からない。だからトヨタとしてはいろいろな選択肢を用意する」という話をしています。

 その多様な選択肢のうちのいくつかは、おそらくビジネスとしては失敗するのでしょう。2030年になったら「これはちょっと今ひとつだった」というものも出てくると思うのですが、やってみなければ分からない。そしてその「やってみる」ことこそが大事なのです。

 不確かな時代においては、全方位戦略であれ、いくつかに絞った戦略であれ、「やってみたけれども失敗だった」ということは必ず出てきます。そして失敗したところで初めて分かることがあります。そこから次の打ち手を考えればいい。そのために失敗はするべきです。

 私は研修やコンサルティングの際によく「とにかく仮説検証をひたすら繰り返すことだ」とお話しします。「仮説検証」と言うと皆さん、いったんは納得するのですが、その仮説検証とは、実は失敗の嵐を起こすことにほかなりません。仮説でやってみてダメだったということが山のようにあって初めて、検証が回るのです。

 その意味では失敗しない限り、成功は絶対につかめません。失敗が当たり前になるような、失敗を許容する仕組みをつくらなければいけない、ということは、本稿でもお伝えしておきたいと思います。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)