雇用の確保は大切なことですが、方向転換の必要はあると考えます。新しいことをやろうとするところには新しい仕事が生まれ、その仕事をこなすスキルを持った人を採用し、全体として賃金も上がるので、理にかなっていると思うのです。厳しいことを言うようですが、やはり「あなたの仕事はもうなくなりました」ということを繰り返していくことによって、組織には新しい仕事が生まれる循環が生じるのではないでしょうか。
新しいことをやるため、成長していくためには、そこに合った人が必要です。変わるビジネス環境に合わせて、人も学び直す「リスキル(再教育、再訓練)」の発想が必要となります。欧米には生涯、学習し続けなければ、求められている職に就けないというところがありますが、日本ではまだ、社会人の学び直しの機運はそこまで高まっていません。
言葉にするなら「ダイナミズム」とでも言えるでしょうか。ときとして解雇のようなネガティブな要素のイベントが発生しても、常に動き続け、それにより新たなものが生まれる。これは、1つの組織内だけの話ではなく、もっとマクロなレベルでも起きています。つまり、環境に追いつけない企業が死んで新しい企業が出てきたり、産業が出てきたりするということです。
日本では人、組織のいずれにおいても、新しい環境に追いつけないものを守る方向にばかり、ベクトルが働いているのではないかと感じます。しかしこのままでは、新しい人材、企業、産業はいつまでたっても生まれないのではないでしょうか。
「不確かな時代」においては
失敗しない限り成功はつかめない
企業の新規事業立ち上げにおいて既存事業を守る動きも、こうしたダイナミズムを阻害するもののひとつと言えるでしょう。カニバリズムを避け、既存事業を守りながら「新規事業はがんばれ」と言っても、最初から説得力がありません。
本来であれば、「新興企業に自分たちの既存ビジネスを壊されるくらいなら、自分たち自身が既存ビジネスを壊して自ら新規事業を興そう」という気概で臨まなければならないはずなのですが、それができない。そして既存も新規もと「二兎を追う」状態になり、どちらもうまくいかないということは頻繁に起きています。同じようなことは日本という国の成長においても、いわゆる「岩盤規制」などのかたちで見られます。