スポーツやビジネスで成功する人が身に付けている「ご機嫌」のスキルベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者が、あるサッカーチームを躍進させた「ご機嫌のスキル」とは

日本のスポーツドクターであり産業医、また、ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者でもある辻秀一氏は、独自のメソッドを用いて多くのスポーツ選手のメンタルトレーニングに携わってきた。2018年にJ2リーグからJ1リーグに昇格したV・ファーレン長崎にも関わったという。そのとき、選手らに伝えたことは「ご機嫌」でいることの重要性。真剣勝負の場に不釣り合いとも思えるテーマではあるが、これが効果的であった。なぜ「ご機嫌」なのか、その理由を辻氏に聞いた。(取材・文/編集者・メディアプロデューサー 上沼祐樹)

ビジネスパーソンも大事にしたい
「ご機嫌のスキル」とは

 スポーツの世界でよく使われる言葉に、フローとノンフローがあります。相手選手やレフリー、試合環境に敏感になっている状態、つまり、「乱れている・揺らいでいる・囚われている」ことをノンフローといい、この逆がフローです。この先には究極に集中できているゾーンというのもありますね。私は、この「フロー」を実践し広く伝えており、もう少しわかりやすく日本語で表現しようと考えたときに、「ご機嫌」に行き着いたのです。

 人が機嫌が悪いとどうなるか。周りの人に優しく接することができないし、人を許せなくなる。また、新しく挑戦することも難しいですよね。目の前のタスクに対して機嫌良く向き合わないと、いいパフォーマンスなんて発揮できないんです。

 ビジネスの領域でもセミナーやトレーニングする機会があるのですが、「機嫌良くやろう」と話すと、「ビジネスはそんなに甘いものじゃない」とおっしゃられるケースもあります。その際には、なぜスポーツドクターがビジネスの場で「フロー」や「ご機嫌」という心の話をしているのかを説明します。フローな心をマネジメントすることの目標には、次のようなものがあります。

(1)パフォーマンス向上に伴い結果を出すため

(2)既存のマインドセットに囚われず、イノベーションを実行していくため

(3)がん・動脈硬化・ボケ・感染症は、人間が克服できていない病気。これらすべてにとって不機嫌は良くない。労働生産性人口が減っている中で、健康的な労働力であり続けるため

(4)暗黙知を共有し、心理的安全性や多様性など、人間関係を高めるため

 このように説明すると、皆さん、ご理解いただけます。スポーツにおいてもビジネスにおいても、共通することは結果を出すこと。そのためには、持ち合わせたスキルをパフォーマンスとして発揮しなければなりません。そのためには、フローの状態である方が絶対にいい。つまり、「ご機嫌」でいること。するべきことを、心を整えて“ご機嫌”でやる必要があるのです。ただ楽しく賑やかにやるだけの「偽ご機嫌」では意味がないですから。