クラウド導入で、社内が二極化してしまった

 2020年、KDDIにCCoEが発足した。発足当時の人数は社内のメンバーだけで5人。のちにパートナー企業からも加わり、30人規模となった。

 KDDIは現在、コンシューマ向けサービスの多くをクラウド上で稼働している。このようにクラウド活用を積極的に進める部門がある一方で、クラウドを全く使っていない、社内でクラウドが使われていることすら知らないという部門も存在し、完全に二極化しているという。

 CCoEのリーダーでエキスパートという職位にある大橋衛は、目下この社内格差是正に取り組んでいる。まずは、「クラウドなんてWebのフロントエンドの一部で使われているだけでしょう」という認識の部門に、今やそうではないという事実を知らせること。加えて、経営層へのインプットを続けているという。

「経営層への説明は、コスト削減や収益といった定量的な効果に重きを置いています。また、競合他社と比べてどうか、追従できているのか、はたまた抜きん出ているのかも伝えるようにしています。要は、CCoEの活動が競争優位性に寄与していることを認識してもらい、後ろ盾(スポンサー)になってもらうことが重要です」

 大橋は、ボトムアップでクラウドを広めていくには、経営層の後ろ盾が不可欠だという。だが、その前提として、「まずは、地道に成果を出して逐一報告すること。そのうえで、『僕は現場で頑張るから、室井さんは偉くなってください』みたいな、青島刑事と室井管理官のような関係を誰かと築くことができれば、この手の活動は各段に進めやすくなる」と考えている。

クラウドでどう安全性を担保するか

 KDDIにクラウドを浸透させるうえでの大きな懸念は、安全性の担保である。クラウドは、故障や障害発生を前提として提供されている。それは、KDDIが担う社会インフラとしての重責とは根本的に相容れないものだった。

「KDDIでは、通信インフラを担うデータセンター、ネットワークなどの設備をすべて自分たちで運用し、障害や機器の故障にも自分たちで対応しています。ひとたび通信障害が発生すれば、当局に事細かく報告する義務も負う。ずっとこのような環境で仕事をしてきた社員からすれば、クラウドの考えは簡単には受け入れられないでしょう。既存のセキュリティのルールは当然オンプレミスを前提に整備されており、このままいくと、『クラウド禁止』となりかねない雰囲気がありました」