「嫁」の本来の意味は、
息子のところに嫁いできた女性

 さて、自分の「妻」のことを「うちの嫁」と呼ぶ人がいます。お笑いの芸人さんたちに多いような気がするのですが、これは業界用語なのでしょうか。

「嫁」という言葉は、鎌倉時代、1275年頃に書かれた『名語記』という語源辞典には次のように書かれています。

「子息が妻をよめと名づくは如何 答、よめは婦也」(息子が「妻」を「よめ」とよぶのはどうか? 答え:嫁という言葉は、子息の妻のことを言うものだ)

 これによれば「嫁」とは、本来「息子のところに嫁いできた女性」を指す言葉だったにもかかわらず、息子が自分で自分の「妻」のことを「嫁」と表現する呼び方があったことがわかります。

 この言い方は、おそらく、落語家や歌舞妓など伝統芸能を教えている家に住み込んでいる人たちの家で使われたのが、現代でも芸人さんたちの家に引き継がれたものであろうと考えられます。

「奥さん」は他人の妻を
尊敬の意味を込めて呼ぶ言い方

 それでは、自分の「妻」を「奥さん」と言う呼び方について記しておきましょう。

「奥さん」のもととなったと考えられる「奥方」という言い方が文献の上に現れるのは、1562年のことです。

 北条幻庵が書いた『北条幻庵覚書』に「近年、座頭と申せば、いずれもおくがたへ参候」と記されます。「最近、我等が首長は、皆様、奥の間の方へとお出でになります」という意味ですが、「奥の間」とは、すなわち、家の奥の方にいる「妻のところ」を表しています。