働き方改革やハラスメント防止、多様性の推進など、リーダーが解決すべきタスクは山積みだ。そのような難問をクリアしつつも、チームの士気を高めて成果を出すために、リーダーに求められることとは何だろうか?
リーダーとして迷いが生じたときに役立つのが、グローバル企業・ブリヂストンで社長を務めた荒川詔四氏の著書『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。
本書では、世界を舞台に活躍した荒川氏が、コンプレックスと捉えられがちな「繊細さ」や「小心さ」を、むしろリーダーが大事にすべき「武器」として肯定している。多くの人を勇気づける内容に、SNSでは「最も心に刺さったビジネス書」「悩んでいることの答えがここにあった」と共感の声が多数寄せられている。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、「地位が上がると横柄になる人」と「横柄にならない人」の違いを解説する。(構成/根本隼)
「地位はダメな人をつくる」と自覚しなければならない
「地位は人をつくる」といわれます。それなりの地位に就くと、その地位にふさわしい人間に成長していくという意味ですが、私はかなり疑わしい言葉だと考えています。むしろ、「地位は“ダメな人”をつくる」というほうが真実に近い。
これは、若いころから薄々感じていたことです。私は、おおむねよい上司に恵まれてきましたので、そのことに非常に感謝していますが、なかには、「自分は能力があるからこの地位に就けた」と勘違いして、尊大な態度を取り始める人物もいました。
偉そうに部下を呼びつけては威張り散らすような鼻もちならない人物を見ていると、「地位は“ダメな人”をつくる」「地位は“変な人”をつくる」という言葉を思い浮かべずにはいられませんでした。
優れたリーダーは「臆病な気持ち」をもっている
そして、優れたリーダーは、「地位は“ダメな人”をつくる」ということをしっかりと認識し、「自分がそうなってしまうのではないか……」という臆病な気持ちをもっています。それを教えてくれたのは、ブリヂストン元社長の家入さんでした。
私を秘書課長に指名した直後、家入さんはこう言われたのです。「誰でも、社長になったとたんに裸の王様になる。俺も、すでにそうなってると思うが、それはとても恐いことだ。お前はおとなしそうに見えるが、上席の者に対して、事実を曲げずにストレートにものを言う。俺が期待しているのはそこだ」
どんな人にも権力に対して防衛的になる
なぜ、リーダーは必然的に「裸の王様」になるのか? 当然のことですが、リーダーが権力を有するからです。どんな人間も、権力を前にすれば、危害を加えられないように防衛的になります。
そして、「何が正しいか?」よりも「どうすればリーダーが喜ぶか?」を基準に行動し始める。その結果、リーダーにとって「心地いいこと」だけが知らされて、本当のことが知らされない状況が生み出されてしまうのです。
注意しなければならないのは、リーダーが意識的に権力を行使しようと意図していないときでも、部下の目にはリーダーの背後に権力が常に見えているということ。つまり、リーダーのほんのわずかな無意識的な反応からも、その真意を汲み取って、それに応えようとしてしまうのです。
地位が上がるほど「裸の王様」になりやすくなる
ここに落とし穴があります。この点に自覚的でなければ、権力を振りかざすような人物でなかったとしても、知らず知らずのうちに「裸の王様」になってしまうのです。
組織というものは、良くも悪くも権力がなければ統制することはできません。つまり、組織には「裸の王様」を生み出すメカニズムが埋め込まれているということ。だからこそ、リーダーは必然的に「裸の王様」になるのです。
だから、地位が上がるときには十分注意する必要があります。地位が上がれば上がるほど、権力は強くなります。その結果、「裸の王様」になりやすくなってしまうからです。
(本稿は、『優れたリーダーはみな小心者である。』より一部を抜粋・編集したものです)