グローバルレベルでの不確実性の高まりに、サプライチェーンはどのように再構築するべきなのか

今年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻は、いまだ終息の気配が見えない。「まさか21世紀にもなって、このような戦争が起こるなんて」と驚いた人も少なくないだろう。経済的な視点では、グローバルに広がっていたサプライチェーンが大きな混乱状態に陥ってしまっている。しかし、今回のような突発的な有事というのは、近年世界中で高まっている“不確実性”の一側面にすぎない。グローバルレベルで起きている変化に対応するために、サプライチェーンはどのように再構築するべきなのか。最近発刊された『パワー・オブ・トラスト』(ダイヤモンド社)から引用して紹介する。(ダイヤモンド社出版編集部)

求められる“3つのE”×QCDの実現

 サプライチェーンに関して、これまで多くの企業は、QCD(品質、コスト、納期)を追求することで、他企業との差別化を図ってきた。一般的には、ある一定量のボリュームで不具合のない商品を大量生産することにより、コストを最適化すると同時に、受注時にタイムリーに供給するというアプローチが一つのモデルだったといえる。

 しかしながら、新型コロナウイルス感染症に端を発するパンデミックへの対応や、eコマースの加速による顧客の嗜好やニーズの細分化への対応など、サプライチェーンには、さらなる柔軟性が求められるようになった。特に昨今の顧客ニーズの変化は、これまでの延長線上での対応では限界があり、QCDの前提が大きく変わるほどのものであるという認識が必要だ。

 一方で、企業を取り巻く状況を考えてみると、ESG、SDGsなど倫理面、環境面での対応の重要性が高まっており、パンデミックに代表される有事の対応と合わせ、外部の変化を考慮したサプライチェーンを再構築しなければ、顧客の信頼を得られる商品やサービスの提供は難しくなってきている。

 このような状況下で、今後は“3つのE(Ethical:倫理的で、Environmental:環境対応をした、Emergency:有事の対応ができる)”×QCDの実現で、顧客からの信頼を得ていくことが求められる。

 特に3番目のE(Emergency)に着目すると、米中対立が激化し、輸出入に制限がかかる可能性があるなど、サプライチェーンの寸断が発生しうることを消費者はより強く意識する状況になっている。このような国をまたぐ供給の突発的な遮断や停滞に対応するためには、グローバルレベルで、特定部品や商品だけではなく、ダイナミックに生産・供給拠点を切り替えるなどの新たなシナリオが考えられる。

 企業としては、消費者に安定して商品提供するにはどうすればよいか考え、競争力を維持・向上することが定石であり、現在でもそれは変わることはない。ただし有事においてはこれまでとは異なる対応が必要となる。在庫切れの際に競合企業と協力しニーズを満たす、地域のコミュニティのため自社の資源を活用するなど、緊急時においても盤石な商品・サービス提供体制を構築するためにパートナーや競合他社との連携が重要となる。