サプライチェーンに潜むリスクをプロアクティブに評価する

 一方で、昨今発生しているような社会・ビジネス環境の変化によるグローバルサプライチェーン全体への影響が次第に大きくなるにつれ、安定的に運営できるサプライチェーンを前提としたこれまでの“大所を押さえて最適化する”という考え方では対応できなくなっている。より包括的に状況を把握し、エンド・ツー・エンドでサプライチェーンに潜むあらゆるリスクをプロアクティブに評価し、安定供給・運営を実現するための対策を打たなければならなくなってきている。

 しかしながら、エンド・ツー・エンドでの情報把握は難度が非常に高く、社内管理レベルと同様の情報粒度や種類の把握を社外に求めることはほぼ不可能である。今回のケースで取り組みが実現に至った要因は、サプライチェーンの全レイヤーに同じ情報の粒度・種類を求めようとせず、サプライチェーンリスクやインパクトを推し量る最低限の情報をレイヤーごとに定義し、収集に成功したことにある。

 サプライヤーネットワークでいえば、二次請け・三次請けの企業名や保有在庫などの情報を取得することは不可能であるが、サプライヤーが生産・物流拠点を構える国・地域のみに情報を絞り、情報を収集したことにより、ロックダウンによる影響のアラートを上げる仕組みづくりに成功している。また、メーカーからサプライヤーに対して情報開示を一方的に要求し続けるのではなく、変化の激しい不透明なマーケット状況のなかでサプライヤーが抱く、安定した受注を獲得できるかどうかの不安感を払拭すべく、プロアクティブに需給見通しをサプライヤーに共有することで、サプライヤーからの信頼を獲得できたことも大きな要因となっている。

 以上、高まる不確実性のなかでも「Emergency:有事の対応ができる」サプライチェーンの再構築について解説してきたが、書籍『パワー・オブ・トラスト』では、残りの「Ethical:倫理的で」「Environmental:環境対応をした」サプライチェーンの在り方についても紹介しているので、ぜひ参考にしてほしい。