日本の財政は健全?
今後さらなる経済成長が必要に

 財政健全化とは何かについて国民の理解が必要であるが、財政健全化とは何かをはっきり定義した文書はないのではないか。いろんな指標で見ていくことなるが、一番いいのは債務残高の対GDP比が発散していないという状況を作ることだ。これに対する国民の信頼が定着するということが定義なのではないか。

 逆に、国民、あるいは海外の投資家に、日本政府は将来払えなくなるのではないかという疑念が生じた場合には、健全化ではないということになるかもしれない。Credit Default Swapというデリバティブがあるが、それのスプレッド(財政破綻の保証料のようなもの)は0.004しかないので、世界中の投資家は日本の財政は誰も破綻するとは思っていない。

 実際上、日本の財政は健全である。さらに健全にするのに何をすべきかといえば、やはり経済を成長させるべきである。成長させれば、その何倍か税収が必ず増える。今引き締めると、必ず税収が減る。ギリシャ状態になる。PBを黒字化するのは簡単だ。しかし、日本のGDPがもっと減る。その状態が、日本にとって受け入れられるのかという問題だと思う。

日本の緊縮は「偉大なる勘違い」が原因?
デフレが少子・高齢化を加速させた

 なぜ30年にわたって緊縮が続けられてきたのかといえば、偉大なる勘違いが長く続いたということだろう。バブルが崩壊した後は、インフレではないという意味で、財務省ではディスインフレと呼んでいた。

 その後、1998年からデフレに入っていったが、そのときの理由は、構造問題だとされた。だから政策ではなかなか変えられない、制度を変えなければいけない、日本人のメンタリティー、生活習慣を変えなければいけない、要するに日本をどこかの国と取り替えなければだめだというような、極端なことを言う人がいた。日銀はその典型だ。デフレの原因は少子・高齢化だと言い張る。少子・高齢化はそう簡単には治らない。そうしたら、未来永劫(えいごう)われわれはデフレを覚悟しなければいけないのかというと、そうかもしれないと言う。

 しかし、例えば、ロシア、ウクライナ、チェコ、ハンガリー、ルーマニアなどの東欧諸国はほとんど少子・高齢化に悩んでいるが、デフレになっている国は一つもない。つまり、関係ない。

 むしろ、デフレだから日本の少子・高齢化が加速してしまったのだと思う。将来の賃金が不安定であれば、なかなか結婚に踏み込めない。子供を2人、3人と産む勇気が出ない。将来、自分の賃金がどうなるか分からないから、安定していない。10年後・20年後の生活設計ができるようになれば、やはりリスクをある程度取っていける。

 企業もそうだ。政策がこれまで本当の問題に焦点を当てなかった。マクロ経済政策でデフレから出られるということを、特に中央銀行が信じてこなかったのではないか。だから、企業もマクロ経済環境がこういうものだと思ってしまったのではないか。企業活動はマクロ経済政策によって変わる。企業行動を変えるためにも、マクロ構造を変えなければいけない。今はミクロで正しくても、みんながお金をためたらマクロではえらいことになるという状況を、早く脱出しないといけない。

「令和の所得倍増計画」を実行し
日本経済を再び成長軌道に

 ここまでが講演の概要である。

 同議連の設立趣意書の副題には「令和の高橋是清、池田勇人を目指して」とある。宏池会の創始者であり、所得倍増計画などの積極財政政策でわが国を高度成長へと導いた池田勇人元首相の名を持ってくることで、その宏池会に属し、今や宏池会の領袖である岸田首相に対して強烈なメッセージを発信しているのだ。積極財政を強く求める、口先だけではなく、「令和の所得倍増計画」を本当に実行することを求める、それに必要な提言はこの議連でしっかりまとめますよという、同議連呼び掛け人らの強い意志とメッセージが読み取れる。

 同議連は、今後専門家等も交えた活発な議論を行い、本年6月の経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太の方針への反映も念頭に提言を取りまとめていくようだ。その一つの大きな目標は、PB黒字化目標の撤廃、少なくとも目標年次の撤廃であろう。わが国経済を成長軌道に戻し、豊かな社会を取り戻すためにも、同議連の活動に大いに期待したい。