「日本」という国名は、唐王朝から名付けられたもので、文献に現れる最古の記録は『旧唐書』東夷伝に残っていて、およそ700年頃のことであると考えられています。

 そして、中国では、「日」がniet(ニェット)、「本」がpuən(プァン)と発音されていました。

 このふたつを合わせて見ると、「日本」は「ニェットプァン」と呼ばれていたことがわかります。ただ、日本風に何度も繰り返し口に出してみれば、「ニッポン」と似ていないわけではありません。

 明治時代の笑い話に、アメリカ人を意味する「American」の発音が、日本人には「メリケン」と聞こえたエピソードがあります。

 What time is it now?が、「掘った芋いじるな!」と聞こえたり、実際に声に出してみたりすると、もっともらしく聞こえるなんてこともありますね。

 日本人は当時、中国語の発音を中国人の先生たちに付いて勉強していたのですが、正確に発音をまねできる人より「メリケン」「掘った芋」式で覚えていく人たちも多かったのではないでしょうか。

平安時代中期に
「ニッポン」から「ニフォン」に変化

 ところで、言語は常に変化していきます。フランス語も英語も中国語も、そして日本語も、どんな言語でも発音も文法も可能な限り簡単になろうとしていきます。その変化は、その時代に生きている人にとっては、自然すぎてわからないものなのですが……。

 話を戻しましょう。およそ平安時代の前期、菅原道真(845年~903年)の頃までは、日本には「ハヒフヘホ」という発音はなく、現在のハ行はすべて「パピプペポ」と発音されていました。上下の唇を合わせてパクパクすると出る音です。

 ところが、これが平安時代中期『源氏物語』が書かれる1000年頃になると、上下の唇を合わせながら、空気を出さない「ファ、フィ、フゥ、フェ、フォ」という発音に変わってしまいます。

 すると「日本」の読み方も、「ニッポン」から「ニフォン」へと変化するのです。

 とは言っても、「ニッポン」という読み方がなくなってしまうわけではありません。「ニッポン」という言い方と同時に、「ニフォン」という言い方も並列して使われるようになってくるのです。