実質所得の推移を見ると、図4のようになる。1995年から2019年までで、全体での1人当たり実質国民所得は1.152倍になったが、うち上位1%は1.429倍、上位10%は1.350倍、上位10%-50%は1.020倍、下位50%は1.052倍となっている。

 すなわち、日本においては、アメリカに比べ、上位階層の所得はあまり上がっていないが、下位階層の所得はさらに上がっていない。ただし、アメリカの上位10%が1.581倍に対して、日本の上位10%の所得は1.350倍なのだから、まずまずの上昇率とも言える。これは、シェアの上昇を反映している。

アメリカは日本以上に格差拡大
わが国ではどうすべきか?

 以上で分かったことをまとめよう。アメリカの格差は日本よりも大きく拡大した。日本の格差がアメリカほど拡大していないのは、上位1%の豊かな人の所得があまり伸びていないからである。また、アメリカの豊かでない人(下位50%の人)の所得は21.6%も上がったのに、日本では5.2%しか上がっていない。

 すると、日本はどうなっていたらよかったのだろうか。日本はアメリカほど格差が拡大しなかったことを喜ぶべきだろうか。それとも下位の人の所得がアメリカのようには上がらなかったことを悲しむべきなのだろうか。

 もちろん、上の人が上がれば下の人も上がると考える根拠もないし、上の人が上がらないから下の人も上がらないと考える根拠もない。すると日本の平均の所得が1.152倍ではなくて、アメリカのように平均が1.389倍になり、皆が1.389倍になるのが望ましいのだろう。でもどうやって? 答えが分からないから「新しい資本主義」などと言うのだろうが、分からないものは分からない。

 できることは、本連載『「日本で賃金が上がらない」本当の理由、GAFAがなくても給料は上がる?』でも述べたように、生産性を上げる新しい試みをする人を邪魔しないことだ。おそらく、新しい試みをする人は上位1%の人の中に多いだろう。すると、新しい試みをする上位1%以上の人の所得が大きく増加して格差が拡大するかもしれない。しかし、それは平均の所得を上げることになるのだから、良いことだといえるのではなかろうか。