『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
読書についてすごく悩んでいますので相談させていただきました。
私は本を読んでも頭にぼんやりとした知識にしかできないことに苛立ちを覚えています。
影響を受けて、まるでその時から生活態度が変わるぐらいに傾倒したり、書籍に書かれた文言を心に刻むほどの血肉化ができなくて悩んでいます。一応、「読んだら忘れない」系の記事や書籍に当たって探し回りました。読書録もつけ始めました。しかし足りないのです。
燃えたぎるほどまでには血肉化されてない。それが悔しいのです。なぜなのか、どうしたら良いかわからず迷路にいる状態です。処方箋としての解決策はありますでしょうか?
人は書物を読んだくらいではそう変わりません。でも読む意味はあります
[読書猿の回答]
優しい言葉をかけるなら「あなたはまだ血肉化に値する書物と出会っていないだけです」というところですが、失礼を言えば、このご質問は、「運命の人に出会うための婚活の方法」をお尋ねになったものに相当します。
ロマン主義は、恋心の主成分でもありますが、一方で人間関係の幅と可能性を狭め、結果として恋愛成就の確率を下げる副作用も持っています。読書についてのロマン主義もまた、読書の幅を狭め、書物との出会いを損なう危険を秘めています。
人は書物を読んだくらいではそう変わりません。「人生を変えた一冊」という体験談を詳しく聞くと、書物は既に変わり始めていた人生を後押ししたに過ぎません。変わり始めていたからこそ、その書物を血肉にすることができた訳です。
したがって処方箋は「よく生きよ」のような更に壮大なものになるのですが、「書物の多くは遅効性だ」と付け加えるべきかもしれません。運命の一冊にあなたは既に出会っているかもしれません。しかしそれに気づくのは読み終えてから、何度も読み返してから、ずっと後になることも多いのだ、と。