『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾンの経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本だ。
アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした同書より、会議の秘訣について語られた部分を紹介する。

「いつも出るたびうんざり」ダメな会議の1つの特徴Photo: Adobe Stock

記憶に残るほどひどい会議

 週次ビジネスレビューを失敗させる落とし穴を見てみよう(注:週次ビジネスレビューとは、アマゾンで行われている、データを分析して実行に生かすための会議。詳細は本書参照)

 ある大きなソフトウェアグループの週次ビジネスレビューは、記憶に残るほどひどいものだった。グループを率いていたのは、いまはもうアマゾンを離れたあるシニアリーダーだった。

 週次ビジネスレビューの重要な目的は学習すること、そして問題が起きれば責任を負い、解決することの2つだが、このグループの会議は大きなチャンスを逃し、参加者全員の多くの時間を無駄にしていた。

 原因の1つは、出席者の数がどんどん膨れあがり、毎回全員が入れる大きな部屋を探さなくてはならなかったことだ。同様に、追跡すべき指標の数も増え続けた。ときには良い方向に進むこともあったが、たいていは逆効果だった。

ダメな会議の特徴:「ルール」がない

 また、会議の雰囲気がおそろしく悪かった。基本的なルールや礼儀作法もなく、勝手な発言や攻撃が目立った。少しでも異常値が報告されるとだれもが殺気立ち、発表者を責めるような質問が相次いで、話は一向に進まなかった。何人もの出席者が、たいして言うべきこともないのに目立とうとしたり、だれかの機嫌を取るために口を挟もうとしたりした。

 さらにたちが悪いのは、こうした長々とした脱線のなかには、時間稼ぎとしか思えないものもあったことだ。自分たちの担当事業がやり玉に挙げられないように、生産性のない会話を引き延ばそうという戦法だ。

 そんな会議に参加するのは苦痛だった。「信頼を獲得する」というリーダーシップ・プリンシプルは、このような事態を防止する狙いもあって設けられた(注:リーダーシップ・プリンシンプルとは、アマゾン社員が肝に銘ずべき14の規範。本書参照)

「リーダーは注意深く耳を傾け、率直に話し、相手に対し敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをすることがあっても間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正当化しません。リーダーは常に自らを最高水準と比較し、評価します」

 ところが、このグループの会議は、この規範からよく逸脱した。

 会議の本来の趣旨は、毎週ソフトウェアシステムを向上させていくことだった。だが会議は迷走した。原因を探るために緻密な質問をするはずの切れ者たちが、怒れる群衆と化すことさえあった。改善に取り組む担当者に襲いかかり、彼らから成功をめざす気力そのものを奪っていた。

「良い雰囲気」と「ルール」をつくるべき

 では、私たちはどうすべきだったのか?

 週次ビジネスレビューに進行役はいない。テーマごとに担当者が引き継ぐ流れだ。だとしても、職位が最も高い出席者は良い雰囲気を演出し、基本的なルールを設けるべきだ。

 また、このグループの場合、その人物が会議の参加者を担当者と主な利害関係者に絞り、評価項目を厳選し、特に重要な指標にフォーカスすべきだった。

 そして、参加者が互いを厳しく追及するのではなく、全員がその厳しい眼差しを会議の運営の問題に向けるべきだった。測定していた分野の多くでオペレーションが管理できておらず、秩序がない状態だということを全員が認識すべきだった。(中略)

 また、このような新しいグループが週次ビジネスレビューを初めて実施するときに、混乱はつきもので、試行錯誤が必要だと心得ておくべきだった。そして、出席者が自分の過ちについて大らかに話せる空気をつくり、失敗を隠さず話すことを奨励し、ほかの出席者がそこから学べるようにすべきだった。

「威圧的な空気」はトラウマになる

 こうした会議で重要なのは、高い水準を追求する緊張感と、過ちについて気楽に話せるリラックスした雰囲気を両立させることだ。

 それがまったくできていなかったこの最悪な会議のことを、あるアマゾン社員は、15年以上たったいまでも覚えている。彼はこう振り返る。

 必要なのは、自分たちを客観視して、みんなの前で事実をさらけ出し、「失敗した。間違っていた。問題はここにある」と言えるチームだ。
 ところが、あるリーダーがこう言ったのを覚えている。
「こんなバカな判断をしたのはだれだ、だれのせいだ?」
 ああいう発言の問題は、有無を言わさず有罪判決を下していることだ。
 リーダーは攻撃せず、判断を差し控え、まずは実際に何が起きたのか理解するところから始めるべきだ。だれもが正しいことをしようとしているのだから。ビジネスを台無しにするつもりなどないし、顧客を憎んでいるわけでもない。自分たちが創造するものに強い責任も感じている。
 その後、われわれは成長して、恐怖ではなく自由を土台とするようになった。素晴らしい行動や成果に報いるのは当然だが、失敗に対しても、チームが率直に自己批判を行えばそのことにも報いるようになった。チームが事実を覆い隠し、顧客体験に目を向けなかったら、そのとき初めて厳しく問い詰めるようになった。

 この回想で注目すべき点は2つある。1つは、長い年月が経っても当事者の記憶が鮮明に残っていること。これは威圧的な経験がいつまでも消えない痕になることを物語っている。

 もう1つは、このチームが失敗から学び、修正を重ね、最終的により良いプロセスを確立した点である。

(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)