いま中国人は中国をこう見る中島恵著『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)

 この男性は「知り合いの話」として、こんなエピソードを聞かせてくれた。

「中国国内にいる人は何をやるにも慎重です。特に最近はその傾向が強まってきました。ウィーチャットの朋友圏(SNSグループ)に『今日、〇△で食事した』と書くだけでも、自分にとって、それを投稿することが得になるのか、損になるのかをよく考えるんです。

 たとえたわいない食事中の写真であっても、そこにわずかに写り込む腕時計のブランドは何か、テーブルのワインの銘柄は何で、価格はいくらか、そこも計算します。高価すぎると、誰かに賄賂でもらったものでは、とか細かいことを突っ込まれるかもしれないので……。

 もっと怖いのは、写真について詮索され、その情報がどこかに伝わっているのに、その事実を私だけ知らないかもしれない、という不安です。高級ワインを飲んだだけなのに、変に疑われたり、何かに巻き込まれたりするかもしれない……。

 スキャンダルが報じられたテニスの彭帥(ほう・すい)選手についても、彭選手がいる部屋の背景に写っていたもの(ぬいぐるみ)が物議をかもしたり、臆測を呼んだりした、ということがありました。だから、中国人は、たとえささいな情報でも、大勢の人が目にするところに何か書くときには、足をすくわれないように、とても慎重になるのです。

 私は日本のSNSもよく見ているんですけど、日本人はそこまで深く物事の影響を考えて、慎重に投稿しているようには見えない。ここは体制が違う国に住む中国人と日本人の大きく違う点かもしれません」

書き込みはAIで自動検閲
数十分で削除されるケースも

 日本に住む別の中国人の知り合いは、よく日本の政治家の話題を中国のSNSに投稿しており、日本の政治家をちゃかすこともあるという。

「日本ではSNSで政治家をやゆすることも自由ですよね。SNSに政治家の悪口を毎日のように書いている人もいますが、よほどひどいことを書かない限り、危険な目には遭いません。そんなこと、日常茶飯事です。

 でも、中国では絶対に無理です。SNSの書き込みは、AI(人工知能)の自動検閲があります。かなり敏感な問題だったら、投稿して数十分か数時間後、あるいは数日後に消される場合もあります。それに、投稿しようと試みても、そもそも投稿できない(タイムラインの画面に反映されない)こともありますから」

 私も以前、別の友人からこんな話を聞いた。

「SNSではなかなか政治の話ができないので、リアルな食事会の席で政治の悪口を思いっきり言った人がいたそうです。それを同席した人がこっそり録音してSNSに投稿し、大問題になった。その人はもちろん、多くの友人を失ったけれど、後の祭りです。中国では、どこにどんな落とし穴があるかわかりません。以前はここまで神経をすり減らすことはなかったのですが、ここ1~2年、国内事情はかなり厳しくなってきました」