乳がんのイメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

ウクライナ情勢を受けて、乳がん患者の手術と検査に使う「ラジオアイソトープ」という医薬品の供給が、不安定になっている。専門医に聞くと、治療現場と患者に多大な影響を及ぼしているという。他方、原油高が病院経営をますます困難にし、M&A(企業の合併・買収)の動向も変わりそうだ。(医療コンサルタント 武知志英)

ラジオアイソトープが手に入らず
乳がんの高感度検査ができない!

 ウクライナとロシアの軍事衝突が続く中、日本の医療に影響が出始めている。

 筆者の知り合いの医師、複数人から聞くところによると、3月3~5日頃から影響が出始めたという。なかでも、乳がん専門医が、「乳がん患者の手術で使う『ラジオアイソトープ』が納品されない。予定している検査や手術を、どうしたらいいものか…」と困った様子だった。乳がんがリンパ節や骨に転移しているかを調べる、高感度の検査ができなくなるというのだ。

 乳がんは、リンパ節や骨などへの転移の有無で、治療法も患者の生存率も大きく変わる。だから転移の検査は、患者やその家族にとって非常に重要だ。乳がん手術の最中に、乳がんから最も近いリンパ節に転移があるかを検査して、転移があればその場でリンパ節を切除することが広く実施されている。

 その検査に、色素とラジオアイソトープ(放射性同位元素)を使う。二つを併用することで、検査結果の正確さを高める工夫がなされている。ところが、この医師は、「ラジオアイソトープの供給が、3月4日から制限された」と言う。

 ラジオアイソトープは、乳がんのリンパ節転移の検査だけでなく、骨腫瘍や骨折、関節炎など、骨に関わるさまざまな検査にも用いられている。したがって、ラジオアイソトープを扱う全国の医療機関でも、同様の混乱が生じている可能性が高い。

 いったいなぜ、ラジオアイソトープの供給が制限されたのか。乳がん患者と医師は今、どのように対応しているのか。加えて、ウクライナ情勢が病院経営に及ぼす影響についても考えてみたい。