M&A仲介業は、事業を売りたい企業と買いたい企業をマッチングさせ、M&Aの成約を仲立ちするビジネスだ。業界を挙げて、中小企業に対して、第三者への事業売却による事業承継の有効性を積極的に啓蒙している。

 中小企業庁による「事業承継・引継ぎ補助金」などの予算化を、千載一遇のチャンスと捉え、“産業界の救世主”とばかりに、意気軒高だ。

 確かに、M&Aは事業承継の有力な手段だ。だが、中小企業の経営者は慎重になった方がよい。

 M&Aを進める際、売り手企業は株式や資産の売却、従業員の労働条件など、重要情報を仲介会社とやりとりする。にもかかわらず仲介事業には、免許も資格も必要ない。中小企業庁が定める「中小M&Aガイドライン」の順守を求められるだけだ。

 実際、最大手の日本M&Aセンターホールディングスでは、顧客の契約書を悪用し、社内報告に必要な書類を偽造するという、ずさんな業務実態が明らかになっている。

 そもそも、M&Aだけが事業承継の手段ではない。親族内や長年会社に尽くしてくれている幹部社員、あるいは外部のプロ経営者に託す方法など、いくらでも手段はある。

 自社に最適な手段を見つけるには、自社の事情をよく知る専門家を味方に付けることだ。地方銀行や信用金庫・信用組合などの金融機関、税理士や公認会計士などの士業は、その有力候補だろう。