イオンはプライベートブランド「トップバリュ」の新商品「プレミアム生ビール」の販売を3月8日から始めた。製造はサッポロビールで、事実上イオンの“軍門に下った”格好だ。サッポロには一度手を出すと抜けられないPB製造に潜む「負のスパイラル」が待ち受ける。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
ヱビスの350ml缶がまいばすけっとから消えた
代わりにサッポロ製造のPB「プレミアム生ビール」
3月11日、イオングループの食品小型スーパー「まいばすけっと」。記者が訪れた首都圏のある店舗のビール売り場で、異変が起きていた。
キリンビール「一番搾り」やアサヒビール「スーパードライ」、サントリー「プレミアムモルツ」、サッポロビール「黒ラベル」……。ビール売り場で、各社の看板商品は350ml缶と500ml缶の両方が並ぶことはおなじみの光景である。
ところがサッポロの「ヱビス」は違った。500ml缶のみが置かれ、350ml缶が姿を消していたのだ。売り切れではないようで、ヱビスの350ml缶は値札さえ見当たらない。
代わりに陣取っていたのは、イオンのプライベートブランド(PB)の新商品「プレミアム生ビール」の350ml缶だった。
店員にヱビスの350ml缶はないかと尋ねたところ、「現在、棚に値札がない商品は、本部からの指示で入ってこないです。棚の商品は1週間ごとに変わるので、その際に入荷があるかもしれませんが……」と告げられた。
イオンは3月7日、PB「トップバリュ」の新商品としてプレミアム生ビールを発売すると発表した。2022年の販売目標は金額ベースで40億円、数量ベースで108万ケース。8日からイオングループの全国約8000店で展開している。
そして、プレミアム生ビールを製造するのがサッポロだ。
イオンはPBのビールで“苦い記憶”がある。11年に韓国で製造したトップバリュ「バーリアル ラガービール」を発売したものの、18年に終売に追い込まれた。
再起をかけてコロナ禍の20年10月、PBのビールとしてサッポロが製造する「富良野生ビール」を発売。当初予想の2倍の売れ行きで、22年2月からは供給が追い付かず、一時休売となっている。
あるイオングループ幹部は、富良野生ビールについて、「売れないとは思っていなかったが、ここまで売れるとは思ってなかった」と顔をほころばせる。
富良野生ビールの成功もあって、今回のプレミアム生ビールへのイオンの期待は高い。折しもコロナ禍での節約志向やインフレ懸念も相まって、他の小売りと差別化を図れるPBに追い風が吹いている。
一方、長引くコロナ禍による居酒屋苦境や原材料のインフレは、サッポロに逆風だ。サッポロの野瀬裕之社長は、「家庭用にしっかり取り組む」と2月10日の決算会見の場で説明している。
とはいえ、家庭用強化という大号令の下、PB製造は“もろ刃の剣”である。特にプレミアムビールのPBを製造することは、イオンの“軍門に下った”ことに等しい。
次ページ以降では、インフレ懸念が高まる今、サッポロがイオンの軍門に下った理由と、一度PB製造に手を出すと抜けられない“負のスパイラル”を解説する。