大井川電機製作所の新規事業である「ハナビラタケの生産」を成功に導いたのは「シルバーパワー」だった。若い感性や発想が求められると考えている新規事業において、定年間際の社員たちが発揮した力とはどのようなものだったのか。また、その力はどのようにして引き出されたのか――。同社の取り組みに、超高齢社会を迎えた日本におけるシルバーパワーの可能性を探る。(フリーライター 二階堂 尚)
第1回「電球を作るようにキノコを作れ!」
第2回「幻のキノコで現実のマーケットをつくり出せ!」
再登板の社長に投げ掛けられた
「キノコで本当に大丈夫なんですか」
中河満氏が、8年ぶりに大井川電機製作所(以下、大井川電機)の社長の座に復帰したのは2019年6月のことだった。
「18年くらいから、米国と中国の貿易摩擦が激しくなったでしょう。それで車が売れなくなっちゃって、会社の業績もドーンと落ちてね。それで、もう1回力を貸してくれないかと声が掛かったんです。こっちは現場から離れて年金生活をしていたところだったけど、請われたらやらざるを得ないよね。そういうわけでまた戻ってきたわけ」
再登板の時点でハナビラタケのプロジェクトはすでに進行していた。中河氏はプロジェクトメンバーにキノコに懸ける熱い情熱を感じたという。
「新しいことに取り組むときに必要なのは、何はともあれパッションだからね。それをすごく感じたの。で、事業としての計画書を作ってみなさいと言ったら、すぐに立派な計画を作ってくれてね。よし、それなら役員会にかけて、事業化するかどうか決めようと。まあ、最終的に決めるのは私なんだけど(笑)、私の一存というわけにもいかないから他の役員の意見も聞いたら、ネガティブな声も出ましたよ。“本当に大丈夫ですか”って。それは当然の心配だよね。何しろ、キノコだから(笑)」
ハナビラタケのプロジェクトに定年を過ぎた嘱託社員たちが多く含まれていたことは以前に書いた。きのこ部きのこ課の初代課長だった岡原和彦氏は、そのメンバーたちのパッションの内実をこう説明する。
「とにかく新鮮な経験でした。これまでやったことがないことにゼロからチャレンジできるわけですから。私自身、入社以来ずっと電球を作ってきて、50代半ばできのこ課の課長に任命されたわけですが、仲間たちと1つのチームになって、試行錯誤をしながら新しいものづくりに取り組むことが面白くて仕方がありませんでした。“やらされ感”のような気持ちは、一切ありませんでしたね」
事業化できるかどうか、事業化したとしても成功するかどうか。全ては未知数だったが、失敗するかもしれないと思ったことは一度もないと岡原氏は言う。工夫次第で必ずどうにかなると信じていた、と。