人を巻き込まない仕事は「作業」

この式を踏まえて私自身の過去を振り返ったとき、「何人の人を巻き込みましたか?」と聞かれると答えに詰まってしまいます。

1500億円の資金を運用していたときも基本的にはいつも1人で仕事をしていたからです。もちろん証券会社のアナリストや営業担当者など、私を「顧客」とする人たちの協力を得てはいました。

ただし、それは彼らのビジネスのためであって、私が彼らを巻き込んで仕事をしていたとは言えません。つまり、当時の私は「仕事量=ゼロ」だったのです。

一方で、たとえばプロ野球の2軍の試合に行くと、「2軍でプレーする選手たちを見たい」と球場に足を運ぶ人の姿を見ることができます。

2軍でプレーしている選手の中には「高校生のときに活躍してドラフトで選ばれて入団したものの、1軍の壁が厚くてずっと2軍にいる」という人、年齢を重ねていて「このまま遠くない未来に引退するのだろう」と思われる人などもいますが、その彼らのプレーを見に人が集まるわけです。

2軍選手たちの給料はあまり多くないかもしれませんが、「あの選手を見たい」と観客を惹きつけ、球場に足を運ばせているわけですから、明確に「人を巻き込んでいる」といえます。つまり「仕事量が大きい」のです。

もちろん、仕事の価値を給料で測るという考え方もあるでしょう。

しかし「どれだけの人を巻き込んだか」というのは、間違いなく仕事の価値を測る重要な軸だと思います。

近年は「自己実現」や「自己肯定」という言葉を耳にすることが増えています。「自己実現」「自己肯定」が求められる時代には、給料の額よりも「人をどれだけ巻き込んだか」が重視されるようになっていくはずです。

人を巻き込まない「仕事量=ゼロ」の仕事は、「仕事」ではなく「作業」です。

私は、「仕事をしている」という感覚と「作業しかしていない」という感覚のギャップは、これからの時代にはどんどん広がっていくのではないかと思っています。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)