宇野隆教授宇野隆教授

「ところがエレクタユニティは、“高画質”のMRI画像でほぼリアルタイムに病巣を確認し、狙い撃つことが可能です。その精度は、従来の装置が夏みかんの白くて厚い皮並みだとしたら、温州みかんの薄皮です」(宇野氏)

 実は“高画質”という点も、臨床現場の医師にとっては衝撃のレベルらしい。昨年11月に開催されたプレスセミナーでは、エレクタユニティによる治療を先行しているオランダのユトレヒト大学医療センターのヤン・ラーヘンダイク教授がリモートで登壇し、次のように語った。

「エレクタユニティで治療した後、従来のCT画像を見た患者さんが驚いていました。『先生、これまでこんな不鮮明な画像を頼りに放射線を照射していたんですか』と」

 並べてみればCTとMRIの画質の違いは歴然だ。

 周囲の正常な臓器への影響を心配しなくてよければ、病巣に対して遠慮なく高線量での照射ができる。破壊力が増せば、当然治療期間や回数の短縮が図れるし、治療成績の向上も期待できる。しかも、主に外来通院での治療となるため、仕事との両立も難しくはない。

 副作用の心配は最小であるにもかかわらず、がんをやっつける威力は必要十分。それなのに陽子線や重粒子線治療と違って、いずれのがんに対しても保険診療が認められているのもありがたい。

 エレクタユニティは乳がん、肺がん、前立腺がん、頭頚(けい)部がん等々、幅広いがんの治療に使える治療装置だが、目下、その特性が一番生かせるのは、すい臓がんだ。

「すい臓は消化管と接しており、胃の後ろ側にあり、十二指腸に囲まれ、小腸、脾臓(ひぞう)とも接しています。しかもがん自体の位置も呼吸や心拍で動く領域なので、これまでは動く分もカバーして広く放射線をかけないわけにはいきませんでした。でもそうすると周囲の臓器にも放射線が当たり、少なからぬ副作用が懸念されます。エレクタユニティなら、そんな難しいがんでも治療することが可能です。

 しかも対象は早期がんに限りません。再発や転移したすい臓がんに対しても、治療が可能です。今、薬物療法が進歩しているので、小さい病巣であれば薬で消すことができますが、それでも残るような生命に影響するような病変も、諦めないでよいのです」(宇野氏)

 昨年12月の治療開始から肝臓がん、すい臓がん、腎がん、前立腺がん、リンパ節再発がんなどを中心に15人程の治療を行い、治療への問い合わせも増えている。

 また千葉大に続き、今年2月末には東北大学病院で、その後、大阪市立大学医学部附属病院でもエレクタユニティによる治療が始まる。

 遠からぬ将来、がん治療、特に早期がんに対する第一選択肢は放射線治療になるだろう。

(監修/千葉大学大学院医学研究院副研究院長、画像診断・放射線腫瘍学教授 宇野隆)

宇野隆(うの・たかし)
千葉大学大学院医学研究院副研究院長、画像診断・放射線腫瘍学教授。日本放射線腫瘍学会専務理事。1988年千葉大学医学部卒。国立国際医療センター放射線科勤務を経て、2012年より現職。