実力低下が鮮明な日本経済
バブル崩壊後は雇用保護を優先

 経済の実力低下によって、わが国が円安の負の影響を吸収することが難しくなった。悪い円安の具体例として、エネルギーや食料品への家計支出が増える一方、余暇への支出は減る。コスト増加によって業績予想を下方修正する企業も出始めた。

 実力低下の要因として、1990年以降のグローバル化の加速に、わが国企業がしっかりと対応できなかったことは大きい。グローバル化によって国際分業が進んだ。米国ではアップルなどがソフトウエアの設計と開発に集中し、製品の組み立て生産を台湾や中国の企業に委託した。それによって事業運営の効率性は高まり、米GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)や中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)が急成長した。

 しかし、わが国では変化への対応よりも、雇用保護を優先する心理が上回った。その要因として、90年代初頭にわが国の資産バブルが崩壊したインパクトは大きい。

 急速な資産価格の下落と景気減速により、企業は過度にリスクテークを恐れた。不良債権処理の遅れは、既存分野から先端分野への生産要素の再配分を阻み、産業構造の転換も難しくした。

 経済全体で新しい取り組みが進みづらく、世界的なヒット商品の創出が停滞した。多くの人が欲しいと思う新しい商品が生み出されないと、経済全体で生産性は高まらない。

 本来であれば、わが国は労働市場などの構造改革を進めなければならなかったが、政府は雇用の保護を重視して97年度まで公共事業を積み増した。「いずれ景気は回復する」との考えがあったからだろう。わが国は事実上のゼロ金利政策など金融緩和策も強化、継続して内需回復を目指した。

 2012年11月の衆議院解散によって実質的に始まったアベノミクスは、デフレ経済からの脱却を目指して、異次元の金融緩和に踏み切った。当時、米国経済の自律的な回復によって徐々に米金利が上昇しはじめた。異次元の金融緩和はドル高・円安の流れを勢いづけ、わが国の企業業績をかさ上げした。その結果、一時、国内経済の回復期待は高まった。