これまで6500人もの学生の運動能力を計測させてもらい、それを評価。分析した結果を、アドバイスを含めて共有させてもらっています。では、何を計測するかというと、打者測定の肝は、独自開発したSWING IDでスイングスイードと打球速度の測定を行い、そこからミート力を導くことです。(ミート力=打球初速÷スイングスピード×100)。投手だと球速、回転数、回転軸ですね。独自に開発したウェアを着ることで、体のひねり・ねじりのタイミングなども数値化することができます。

アシックスが、日本の野球指導には「数値化」が必要だと痛感している理由

 こうやって、あらゆる角度から体の動きを数値化。数字で理解できることで、自分がチーム内でどの立ち位置にあるのか、また、チームは全国的にみてどの立ち位置にあるのかが可視化されます。俯瞰して自分たちの力量を把握して課題を分析。日々のトレーニングに何を組み込んでいくべきかを考え、それぞれ監督やコーチなど指導者に相談して実践することが大事なのです。

 とはいえ、まずは皆さん、自分の評価を数値で測定されることで、誰々に勝った・負けたとなりますね。その結果、自信をつけたりすることもあるのですが、本来の目的はそこにありません。自分の現在地を知ることは大切ですが、一喜一憂していては成長できませんから。どんな結果が出ようと、「まずは数値と向き合って自分で分析しよう」と学生には話しています。

まずは数値と向き合う
ファクトベースで個々を強化

 アシックスでは、様々なフィードバックを行います。例えばスイングスピード。スイングスピードは筋肉量と相関性があることが、我々のスポーツ工学研究所の研究で明らかになっています。つまり、筋肉量が少ないわりにスイングスピードが速いということが数値でわかれば、「体を上手に使ってバッティングができている」可能性が高いと言えます。さらに筋力量を上げることで、理想のバッティングに近づけるでしょう。一方で、筋力量が多いわりにスイングスピードが遅ければ、「体がうまく使えていない」ことがわかります。

 ピッチャーでも同様の測定が可能です。球速や回転数、回転軸が計測できるので、球速のわりに回転数が多い場合は、「伸びのある球が投げられている」ことになります。球速のわりに回転数が少ないと、「くせ球になりがち」と判断できます。縦に曲がるカーブを得意球としていた投手のボールが、実は横に曲がっていたことが判明することも。ですので、大切なのは結果の良し悪しではなく、特徴を理解した上でどこを磨くのか、改善するのかを考えることです。