スポーツにおける「根性論」と呼ばれる指導方法は、昨今批判の的になっている。これからの時代は根性論から脱却し、指導者と選手が共に成長する在り方が重要になるだろう。そのキーワードのひとつが「セルフ・コンパッション」だ。『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2019年5月号)』(ダイヤモンド社)を参考に、根性論脱却のヒントを探ってみる。(文/フリーライター 鈴木 舞)
根性論で選手の未来を潰す
指導者の特徴
ネガティブな意味での根性論というと、熱血指導者が過酷なトレーニングを課し、肉体的にも精神的にも選手を追い詰めるイメージを思い浮かべやすい。根性論には「簡単には諦めない」「練習熱心」というポジティブな意味合いもある。とはいえ、根性論に限界と問題が存在し、看過できない事例が発生していることも事実だ。
従来のスポーツ界には、プロ・アマチュアを問わず根性論が蔓延していた。現在でも根性論に根ざした指導は行われている。特に問題となるのが、根性論が引き起こす怪我や体罰、パワーハラスメントだ。
根性論による指導では、長時間のトレーニングや負荷の大きいトレーニングが選択されがちだ。それによって引き起こされるオーバートレーニングやオーバーユースは、選手生命を断つ怪我につながりかねない。だからこそトレーニングプランには、怪我や疲労からの回復期を組み込むのがセオリーだ。トレーニング理論やスポーツ科学を学んだ指導者であれば、休息が必須なことは承知のはず。
十分な知識を習得していない指導者のもとでは、選手が体を壊すリスクが高まる。体が悲鳴を上げていても、根性でカバーできると考えがちだからだ。根性論の指導者には、知識よりも自分の経験や理念を優先する傾向も見られる。しかし、トレーニング理論やスポーツ科学の分野は日々研究が重ねられ、進化を遂げている。情報をアップデートできない指導者は、本人にその気がなくても間違った指導をしてしまう恐れがあるのだ。
昨今における根性論の大きな問題となっているのが、パワハラだ。職場におけるパワハラも問題視されているが、スポーツ界でもパワハラに反対する声は大きい。パワハラ的な言動や行動は「行き過ぎた指導」として表現されることもある。