特に、後者は個人の実績が強く反映されるため、人によっては額面に数百万円もの差が出ることもあるという。成果によって個人の頑張りを後押しする、納得感のある制度となっている。

 一方、報酬を左右する人事評価においても「個の成長」が重視されている。期初に設定された年間の個人目標に対しては、期中に上司と部下が定期的に1on1ミーティングなどを行い、業務の進捗確認をする。常日頃から、評価者と被評価者の間で意識のズレが拡大しないように工夫されており、期末には「実績」と「行動」の2軸で評価が行われる。

 評価という点では、毎年2回行われる社員の意識調査「BE Heardサーベイ」も興味深い。これは、会社の施策や組織風土について、ワールドワイドでソニーグループ社員の声を直接集めるもの。 調査結果は全て現場にオープンにされ、より働きやすい組織へ変革するための改善活動へと繋げられる。

「マネジメントが課員を評価するだけでなく、課員からマネジメントに対してフィードバックを行うことで、全方位で現場に『気づき』が生まれる仕組みになっている」(吉沢氏)

驚くほど早期に導入されていた
「働きやすさ」をサポートする制度

 さらに注目すべきは、社員の「働きやすさ」をサポートする制度の充実ぶり。日本企業では近年になって整備が進められた感のある制度が、同社では随分前から導入されていたことに驚かされる。

 たとえば、月間フレックスタイム制度(月間所定労働時間とコアタイムが設定されている勤務スタイルで、始業・終業時刻を選択可能)、育児・介護短時間勤務制度、裁量労働制(時間より成果を重視)が、早くも1990年代に導入されている。

 コロナ禍で企業社会に普及した、テレワークへの取り組みも早かった。2000年代に在宅勤務制度(育児・介護を要する社員が対象、週1回、時間単位は週2回)が導入され、10年代にはフレキシブルワーク制度(全社員が対象、月10回まで、時間単位は制限なし)へと発展。こうした下地があったため、コロナ禍での働き方に大きな混乱は起きなかったという。

 これだけ柔軟な働き方を会社が社員に認めることからは、社員に対する自律と成長への期待がいかに強いかがうかがえる。「個人が成長することが会社の成長にも繋がる」という信念は、折に触れて経営トップから社員へと伝達され、それが他社には見られないソニー独自の文化を育んでいるのだ。