社員の裁量権を最大限に尊重した
「ジョブグレード制度」「社内募集制度」

 この制度において社員の等級は、基本の等級群にあたる「インディビジュアルコントリビューター等級群(I)」と「マネジメント等級群(M)」の2つに分かれている。Iは個人の専門性を発揮して貢献する役割、Mは主に所属するメンバーを率いて組織を運営することで成果を出していく役割だ。

 I等級群は「I1」(定型業務従事者)から「I9」(業界レベルの専門家/社内技術リーダー)まで設定されている。I等級群もM等級群も、グレードは数字が大きいほど上位になる。

 興味深いのは、その時々によって、社員が2つの等級群を上下左右にシームレスに行き来できることだ。これなら自分の目指す方向性によって、高度な専門技術を生かすキャリアを構築することも、マネジメントの道を究めることも可能だ。さらに、途中でキャリアやグレードを変更することもできる。

「個人のキャリア志向を尊重するソニーでは、技術を追求するエンジニアがエキスパートエンジニアとして評価、処遇される仕組みもあります。自らキャリアを形成し、キャリアアップを叶えるチャンスも多く、若手がマネジメント等級で抜擢されることもある」(吉沢氏)。

 この仕組みはある意味、究極の実力主義といえるだろう。

 社員に裁量権の高い働き方を認めているもう1つの制度が「社内募集制度」だ。これは、上司に知らされることなく、社員がキャリアアップのために自ら手を挙げ、希望する部署やポストに異動できるというもの。社員が社内の「求人票」を見て応募すると、面談を通じて希望部署とのマッチングが行われるという流れで、毎年200人以上が異動しているという。

 驚くことに、この制度が導入されたのは50年以上も昔の1966年。「これまでに7500人以上の社員が同制度を使って異動している」(吉沢氏)というから、ソニーに「個」を重視する風土が根付いている背景がわかるというものだ。

「働き方」がこれだけ明確に設定されているため、それに対応する報酬制度も明快だ。報酬は、毎月のベース給と年2回の業績給がメインとなっている。ベース給は現在の役割(ジョブグレード)に応じた一定のレンジから決定され、役割の大きさに変動があれば、随時ベース給に反映される。また、毎年の評価によって改定も行われる。一方の業績給は、毎年の会社業績や個人の実績に応じてダイナミックに支給額が変動する。