情報のかけ合わせがイノベーションを生む
――事業を成功させるうえで、他に重要なことはありますか?
松本 一歩目をふみ出すタイミングではインテンシブ(短期集中)に世界中から情報をインプットしています。
コンサルティング会社が持っているフレームワークは基本的には1次産業か2次産業に対するもので、3次産業でデータに特化したフレームワークはほとんど持っていないと私は思っているんです。組織マネジメントに対するアプローチも古くなっています。
そのあたりはシリコンバレーが圧倒的に進んでいて、書籍も出ています。YouTubeやTed talkを見れば山ほどフレームワークが見つかります。
たとえば昨年は、指名報酬委員会を強化するために、幹部の報酬制度をテーマとして考えました。
まず、その領域において日本で一番といえるゴールドマン・サックスの報酬制度を作った人に会いました。
投資銀行は報酬制度によってドライブした面もあるので、それをどう作ったのか。一次ソースである本人に聞くわけです。
大体のプラクティスを理解した段階で、昨年11月にはハーバード大学のエグゼクティブMBAに1週間弱行ってきて、報酬制度を学びました。
「イーロン・マスクの2020年の報酬、約66億ドル(およそ7300億円)はどのような制度のもとで支払われたのか」「モルガンスタンレーのCEO報酬は、リーマンショック後どのようにコントロールされているのか」などを学ぶわけです。
アメリカの報酬制度のスタートアップ側も大企業側も、最先端と過去の議論も全部見たうえで、「じゃあ、どういう報酬制度を作ればいいのか?」を持ち帰る。
とにかくインプットして、フレームワークを理解して、その上で我々の事業に適用させる方法を考えています。
平尾丈(以下、平尾) 松本さんのインプット力が素晴らしいなと思って聞いていました。
データが世の中にたくさんあり、事例も調べればわかるのが現代ですよね。
本書でも過去問が問題発見のコツと書いてますが、スケールで考えていて突き抜けていらっしゃるんですね。
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。
松本 「今っぽいな」と思う戦い方は、藤井聡太さんなどが挙げられますね。過去の棋譜を全部頭に入れると、その先へと進化ができる。
イノベーションは情報と情報の組み合わせなので、良質な情報に触れて引き出しを増やすのが大事だと思います。
一方で、自分の興味ある情報しか取り入れない人が多いと思います。特定領域だけに詳しくなっても、情報を掛け合わせることはできません。
幅広い情報収集には、「目の前の差し迫ったテーマを乗り越えるための勉強」が一番です。知識が蓄積されてくると、掛け合わせができるようになるので。