スポーツ教育で子どもに学ばせてはいけない言葉と、学ばせるべき感性スポーツのテレビ中継と子どもへの影響について指摘する、日本スポーツマンシップ協会代表理事会長の中村聡宏氏

スポーツのテレビ中継を見ていると聞こえてくる言葉「良いファール」。多くの場合、相手の決定機に対して、意図的に反則で止めるプレーのことを言う。チームを助けるための高度な献身的プレーと評価されることもある。しかし、これをフェアプレー精神に重ねると、どう解釈できるか。どのスポーツにもルールブックがあり、その規則に則ってプレーを行う。罰則を受けるから「良いファール」は許されるのか。「中継を観ている子どもたちのことを考えると無頓着な部分がある」と指摘するのは、スポーツマンシップ協会代表理事会長であり、千葉商科大学サービス創造学部准教授の中村聡宏氏。スポーツマンシップを掘り下げた第1回、グッドゲームについて掘り下げた第2回に続き、スポーツと教育に関して紐解いていく。(取材・文・撮影/編集者・メディアプロデューサー 上沼祐樹)

スポーツの現場に「敵」はいない
教育で必要とされる共育の感性

 スポーツ中継など見ていて一般的に使われますが、その度に疑問に思う言葉があります。「良いファール」ももちろんそうなのですが、「敵」という言葉もいかがなものでしょうか。英語に置き換えると「enemy」となります。

 以前、IOCのキャンペーンで「あなたは敵じゃない」というフレーズが使われていましたが、ここでは「adversary」と表現されていました。敵ではなくて“対戦者”ですね。敵というのは軍事用語。相手国に対して軍事的措置を行うのが戦争です。相手に向き合うという形は似ているかもしれませんが、実際は違います。平和の祭典とも言われるオリンピックで軍事用語の「敵」を使うのは、どうかと思います。

 敵というのは、「いなくなっていいもの」。まさしく今のコロナのようなウイルスではないでしょうか。スポーツの現場には敵はいません。対戦相手はスポーツを愉しむ上で必要不可欠な、真剣に勝負を挑むパートナーでもあります。ですので、卑怯な手を使ってでも倒さなければいけない相手ではありません。「相手」と言葉を変えるだけでも随分と印象が違いますよね。